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最終回 [銀河極小戦争]

最 終 回








 スペース・ア・ゴー・ゴーに対する攻撃は全銀河に衝撃をもたらした。

 カズヤンはアニプラに説明を求めようとしたが、部下はクラブで死亡しており、彼の腹心であるナルホーが代わりに応じた。

 「何事なんだねぇ!」顔に汗を浮かべたカズヤンがナルホーを怒鳴りつけた。

 「申し訳ありません。アニプラ様が席を外している間に何者かがドローンで攻撃を―」

 「それは知ってるつうのォ!」カズヤンが部下の話を遮って再び怒鳴った。「その理由が知りてぇんだよぉ〜」

 このやり取りを予想していたナルホーは怯んでいなかった。最初の発言はアニプラに責任を負わせ、自身に降りかかるであろう処刑を逃れるためのものであった。

 「犯人に目星はついております。そして、現在追跡中です。」とナルホー。
 
 「ホンマかいなァ!んじゃ、ソイツの写真を全銀河に流さんかいな!俺に逆らったらこうなるつう、見せしめみしたるぅ!」

 「直ちに取りかかります。」

 「んじゃ、今日からお前が探し屋部隊の指揮を執れ。ええな?」

 「ありがたきお言葉―」

 ナルホーの返事を聞く前にカズヤンは通信機の電源を落とした。



***




 ナマズの死体を引き取るため、ミアツは一足先に死体安置所に来ていた。

 スペース・ア・ゴー・ゴーに姿を見られないように彼女は、帽子を目深にかぶって通りを歩く人と目を合わせないようにした。
 
「待った?」

 背後から声をかけられてミアツは驚き、素早く背後に視線を向けた。そこには黄色い歯を見せて笑うエヌラがいた。

 (生きてた!)スケべ男の死を予期していたミアツは喜んだ。

 「アイツらはどうなったの?」

 「ナマズの仇は取ったよ。んで、ここにいた?」エヌラが死体安置所の入り口を見た。

 「これから確認するところ。ここにいなかったら、ナマズさんはアイツらに囚われてるかも…」

 「病院の確認は?」

 「したけど、手がかりなし。」

 「じゃ、行くしかねぇてばよ!」
  二人が受け付けに問い合わせると、カウンターにいた男が眉をひそめた。ミアツは男が何か知っていると思い、カウンターに両手を置いて身を乗り出した。

 「ここにいるんですね。」

 「いましたよ。でも、廃棄処理場に送りました。」

  エヌラとミアツは驚いて口を大きく開けた。
 
 「あの人は人ですよ!」ミアツはスペース・ア・ゴー・ゴーの非道さに苛立った。
 
 「人?」受付の男が聞き返した。「あれはアンドロイドですよ。」

  「そんなバカな…」エヌラが両膝から崩れ落ちた。

 「何かの手違いじゃないんですか?」とミアツ。

 「ちゃんとスキャンしましたよ。人間ぽかったですが、あれは正真正銘のアンドロイドでした。」
 
 ミアツは混乱しながらもしゃがみ、エヌラの肩に手を乗せた。「廃棄処理場に行ってみよ。」
 
 「んだなす…」

 廃棄処理場に着いた時、ナマズの死体が入ったカーゴの焼却が行われようとしていた。ギリギリのところでミアツがそれを中断させ、エヌラがナマズの死体をカーゴから掘り起こした。

 「ナマズよぉ〜」エヌラの目に涙が浮かんだ。
 
 その間にミアツはナマズのうなじを指で触れ、アンドロイドのメモリーディスクが収められているスイッチを探した。彼女はそれが無いことを祈りながら指先の感覚を研ぎ澄ませた。そして、見つけたくない物に触れ、心臓を締め付けられた。固唾を飲んでミアツはスイッチを押し、その少し上から小さな半円状の物が飛び出してきた。

 「この中にナマズさんの―」口を開いたものの、ミアツはメモリーディスクを見て絶句した。中身が入っていなかったのだ。

 「どったんだよ!」とエヌラ。

 「メモリーがない。抜かれてる…?」

 「抜かれてるって…こんな時に下ネタかよ!」エヌラがミアツの肩に軽くパンチを入れた。

 「中身がないの!アイツらが盗んだに違いないッ!」

 「何のために?」エヌラが不思議そうにメモリーディスクを見た。

 「私たちを探すために決まってるでしょ!」

 「にしては、時間がかかり過ぎじゃねぇ?あんだけ派手に動いた後だぜ。」
 
 (確かに…捜索している割にはナマズさんの死体にすんなり近づけた。だとしたら、ナマズさん自身がメモリーを消去した?でも、ディスク自体がない。もしかして、初めから入ってなかったの?)

 「アイツらが俺たちを探しているなら、逃げなきゃ不味いんじゃねェ?」

 「でも、できればナマズさんのメモリーだけでも…」ミアツは念のためにナマズのうなじを探り、ディスクが引っ掛かっていないか確認した。しかし、何も見つからなかった。

 (メモリーディスクがなければ起動はできない。)ミアツは考えた。(遠隔操作なら起動できるかもしれない。でも、誰が何の目的で?)

 「おい!急ぐぞい。」エヌラがナマズの死体を持ち上げた。「追手も迫ってるらしいし、ナマズの謎もあるみたいだし…」

 「そ、そうね…」様々な憶測が頭の中を駆け巡り、ミアツは適当に返事を返した。

 二人は急いで廃棄処理場を後にした。











第一章『銃使い』 完
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第十八回 [銀河極小戦争]

第 十 八 回








 今度の目覚めは清々しかった。〈彼〉は懐かしい重みを腰に感じてニヤリと笑った。

 「リハビリになる相手だといいな…」そう呟きながら〈彼〉は道路を渡り、クラブの入り口前に立った。ドアの前に立つ黒いスーツを着た犬人間二人が〈彼〉を睨みつけた。

 「ここはお前の来る場所じゃない。」警備の一人が言った。

 「ここにアニプラっていう奴がいると聞いたんだ。」

 アニプラの名を聞いた途端、犬人間たちの目つきが変わった。

 そして、それと同時に〈彼〉は右手にいた犬人間の喉に拳を打ち込んだ。素早い攻撃に反応できず、また喉仏を潰されたことで呼吸困難に陥った。

 もう一人の犬人間は上着の下に隠していた拳銃を掴み、急いで目の前にいる男に向けようとした。だが、銃を向ける前に〈彼〉が股間に蹴りを叩き込んだ。犬人間は激痛に前屈みになり、気が付くと右手に握られていた拳銃が消えていた。慌てて上を向いたが、〈彼〉の顔を見る前に光線弾が犬人間の頭を撃ち抜いた。

 <彼>は喉を抑えていた犬人間の横を通り過ぎる直前、思い出したように生き残っていたもう一人の頭を撃ち抜いた。

 「トロいな…」

 入り口を抜けると大きなホールに出た。そこには迎えのスピーダーを待つ犬人間が多数おり、〈彼〉の姿を見ると全員が動きを止めた。

 「おい、アンタッ!」サングラスをかけた大柄の犬人間がやってきた。「ここはアンタの来るような場所じゃないよ。」

 「そうかな?」〈彼〉は大柄の犬人間の胸と頭部に光線弾を叩き込んだ。

 銃声が鳴り響くと、ホール内に悲鳴が木霊し、その場にいた犬人間たちが一斉に出口に向かって走り出した。

 その様子を監視カメラ越しに見ていた監視係がタブレットの通信ソフトを使い、クラブの地下で待機している傭兵に連絡した。この傭兵たちはクラブに雇われた〈人間〉で構成された部隊であり、犬人間種はいなかった。十人の傭兵たちが短機関銃を手に取って地上に続く階段を上がり始めた。

 一方、〈彼〉は待合ホールを抜けてダンスホールに入った。大音量の音楽が鳴り響いているため、そこにいる客たちは外の銃声に気付いていなかった。〈彼〉は視線を走らせ、ミアツの見せてくれた写真の犬人間を探し求めた。ふと顔を上げて見ると、ダンスホールを見下ろすように設置されたテラス席があり、そこにアニプラの姿があった。その犬人間は両隣にいる着飾ったメスの犬人間と談笑し、〈彼〉の存在に気付いていなかった。

 訓練によって研ぎ澄まされた感覚が〈彼〉に警告を与えた。左右に視線を配ると、短機関銃を巧みに上着の下に隠した男たちの存在に気付いた。その男たちは犬人間種ではなく、〈彼〉と同じ純人間種であった。

 (傭兵か?)自然と胸が躍り、〈彼〉は右手に持つ奪った拳銃の銃把を強く握った。

 傭兵たちも〈彼〉の存在に気付いた。

 「フェルン、二時の方向。ボング、お前は一一時の方向だ。静かに終わらせろ。」ダンスホールの隅で様子を見ていたリーダーが、部下の頭部に埋め込まれているチップにメッセージを送信した。それを受信すると傭兵たちは静かに標的との距離を詰め始めた。

 <彼>は迷いを見せず、余裕の表情を浮かべて左へ歩き出した。

 近づいてくる相手の動きを注視しながら、フェルンは短機関銃を撃てるように上着の裾に右手を置いた。彼の数メートル背後を歩いていた男も同様の態勢を取った。

 フェルンとの距離が二メートルと迫った瞬間、〈彼〉が躍っていた客を押し退けて発砲した。光線弾はフェルンの胸に命中し、被弾した男は驚いたものの、防弾ベストで守られていたのでケガはなかった。しかし、フェルンが驚いている間に〈彼〉は撃った男の背後にいた傭兵の頭部を撃ち抜いた。

 (死ねッ!)フェルンが短機関銃を取り出した。

 その直後、〈彼〉が銃口でフェルンの喉を突いた。次に相手の短機関銃を掴み、左肩越しに背後を確認すると左脇の下で銃を構え、近づいてくる二人の傭兵の頭部を撃ち抜いた。背後の脅威を排除すると、〈彼〉は右肘を下からフェルンの顎に叩き込み、追い打ちをかけるように銃底で相手の鼻を砕いた。フェルンが床に落ちると〈彼〉は相手の頭を撃ち抜いた。

 ようやく異変に気付いた客たちが悲鳴を上げ、逃げる客が増えた。しかし、泥酔している客たちは、これが新しいパフォーマンスだと思って拍手を送った。

 「全員で奴を止めるぞ。」傭兵のリーダーが新しいメッセージを部下に送った。

 その時、下の状況に気付いたアニプラが両隣にいたメス犬を押し退け、壁のフックにかけていたガンベルトから回転式弾倉の散弾拳銃を手に取った。

 (良い度胸じゃねぇか!)

 アニプラはテラスから襲撃者に銃口を向け、撃鉄を親指で下ろした。引き金を絞ろうとした時、標的が視界から消えた。

 (なッ!)

 <彼>は四メートル先にいた傭兵に接近していた。巧みに逃げ惑う客を盾にして前進し、相手が〈彼〉との距離が急激に縮まったことを知るや否や、〈彼〉は素早く引き金を絞った。光線弾が傭兵の右手に命中し、その手に握られていた短機関銃の銃把もろとも粉砕した。

 激痛に呻く傭兵との距離をさらに縮めて〈彼〉は右膝で相手の股間を蹴り上げた。傭兵は形容し難い痛みに悲鳴を挙げるも、〈彼〉はそれを無視して左手で相手の短機関銃のスリングを掴んで引き寄せた。

 彼らの二メートル先にいたもう一人の傭兵が狙いを定めようとしたが、〈彼〉が仲間を盾にしたので移動する必要があった。

 その隙に〈彼〉は振り返って敵影を探した。逃げる客と逆方向に進む男二人を発見し、素早く銃口を向けて引き金を絞った。だが、何も起こらなかった。

 (オーバーヒートか…)

 <彼>は銃を捨て、再び盾にしている傭兵の股間を蹴り飛ばして相手の拳銃をホルスターから奪った。数発の光線弾が鼻先をかすめ、〈彼〉の額に青筋が浮かんだ。

  (これだから光線銃は好かんッ!)

 目にも止まらぬ早さで〈彼〉は発砲してきた背後から迫る傭兵二人の頭部を撃ち抜いた。そして、盾にしている傭兵に銃を向けて引き金を絞った。男の鼻から下が吹き飛ばされ、傭兵が床に崩れ落ちた。

 盾が消えたことで視界が広くなり、二メートル先から〈彼〉を狙っていた傭兵の姿が見えた。〈彼〉は迷うことなく、その傭兵の頭を撃ち抜いた。

 その頃、ホールには〈彼〉と二人の傭兵、酔い潰れた数人の客しかいなかった。テラスにいたアニプラは侵入者の動きを見て、少年の頃のことを思い出していた。それは〈彼〉の動きが、かつてみた隻腕のガンスリンガーに似ていたからであった。

 そう思った時、〈彼〉が目にも止まらぬ動きで銃を持ち上げ、ホールの隅にいた傭兵二人の頭部を撃ち抜いた。

 〈彼〉がテラスにいるアニプラを見上げる。口角が少し上がり、その様子を見たアニプラの首筋に悪寒が走った。

 (クソッタレがッ!)アニプラはテラスの窓を銃で砕き、ホールにいる〈彼〉に銃を向けた。

 「面白い銃だな…」〈彼〉がアニプラの銃を見て呟いた。

 「何者だ?」と犬人間。

 「復讐代理人ってとこかな?」

 「ふざけるなッ!」

 アニプラが発砲した。しかし、弾は〈彼〉の足元に着弾した。

 (下手くそ…)そう思いながら〈彼〉はアニプラの胸に光線銃弾を撃ち込んだ。

 被弾したアニプラは衝撃で弾き飛ばされ、背後のソファーに崩れ落ちた。胸から血が噴き出し、咳き込んだ際に口から血を吐いた。

 (ば、バカなッ!) 落とした拳銃に手を伸ばしたが、それは遥か遠くにあるように感じられた。必死になって手を伸ばすも距離は縮まらない。その時、誰かが彼の銃を持ち上げた。

 「コイツはもらうぜ…」〈彼〉が回転弾倉の中身を確認した。

 (やはり散弾か…)

 瀕死のアニプラを見下ろし、手首のスナップを利用して弾倉を元の位置に戻した。〈彼〉は自然な動きで銃を左手に持つと、ベルトの左側に差し込んでいた拳銃を抜いて振り返った。

 背後に立っていた人物は黒いローブを着ており、フードを深く被っていたので顔が見えなかった。その人物は大きな鎌を背負っており、〈彼〉は黒衣姿の人物がアニプラの部下ではないと予想した。

 「こっちのエヌラは素早いな。」フードの奥から男の声が聞こえてきた。

 「俺はあの臆病者じゃねぇよ。」

 「ガンスリンガーの方か?」

 男の問いに〈彼〉は驚いたが、それを顔に出すほど間抜けではなかった。

 「だとしたら、どうする?」

 「私にとっては好都合だ。また会おう、ガンスリンガー…」

 そう言うと黒衣の男は煙のように姿を消した。

 (エヌラの意識と混線した影響か?いや、そうなら気づいてるはずだ。どっちにしても、気にいらねぇ野郎だ…)

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第十七回 [銀河極小戦争]

第 十 七 回








 宇宙船に戻ったナルホーたちはメモリースティックの解析を急いでいた。

 人工知能を用いて帳簿の中に隠された暗号や隠しファイルを探し求めたが、何の成果も挙げられていなかった。

 「もう一度解析しろ!」ナルホーが人工知能『モアブ』に命じた。モアブは指示通り、七千五百二十三回目の解析を始めた。

 (クソッ!何故、何も出てこない?)

 「ナルホー様。」部下の一人が彼の前で立ち止まった。「アニプラ様から通信が入っています。」

 ナルホーは焦る気持ちを隠しながら、タブレットでアニプラの通信を受け取った。

 「どうされましたか?アニプラ様。」

 「解析の結果は出たか?」

 「いえ、まだです。予想よりも暗号が複雑でして、解読に時間が掛かっています。」

 「そうか…。カズヤン様から連絡はあったか?」

 「いいえ、ありません。」

 「ならいい。また後で連絡する。」

 通信が途絶えた。

 (このままではアニプラ様に殺される。メモリースティックがダメなら、あの逃げた二人を―)

 衝撃が宇宙船を襲った。

 ナルホーがバランスを崩して尻餅を付き、彼の部下もバランスを崩して転んだり、慌てて壁や柱に掴まったりする者がいた。

 「何事ですか!」ナルホーが近くにいた部下に尋ねた。

 「む、無人機が…大量の無人機が―」

 報告していた部下の前にあったガラスを突き破り、大きさ五十センチの無人偵察機が彼の胸に突き刺さった。

 ナルホーは伏せ、タブレットで宇宙船のレーダーを確認した。画面を埋め尽くすように無数の青い点が表示されている。

 (襲撃ッ?)




***





 「始まったよ。」

 ナルホーたちの乗る宇宙船から二十五キロ離れた場所にいたエヌラがミアツから連絡を受け取った。

 「出入り口に武装した警備が二人、中に二十人はいるよ。本当にやるの?」ミアツの心配そうな声が、右耳に差し込んだイヤフォンから聞こえてきた。

 「ここまで来たら退けねぇてばさ。」そう言うとエヌラはイヤフォンを外し、地面に落とした。

 耳を突き刺すような雑音が聞こえ、不快に感じたミアツがヘッドフォンを外した。

 (死なないでよ…)

 一方のエヌラは深呼吸して、道路を挟んだ向かい側にある犬人間種が経営しているクラブを見た。煌々と光るピンク色の看板の光を浴びている彼は、まだ引き返す余裕があると思っていた。だが、ナマズのことを思うとスペース・ア・ゴー・ゴーへの怒りが強くなった。

 「力を貸してくれ…」エヌラが呟いた。

 (ゴドー村の時より少ない人数じゃないか。俺の助けはいらないと思うぞ。)

 「あの時からもう四年経ってる。腕も鈍ってる…」

 (そうなると、〝乗っ取る〟ことになるぞ。)

 「時間がないんだ。早く済ませよう。」

 (分かった。)

 その声が聞こえたと同時にエヌラの意識が飛んだ。

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第十六回 [銀河極小戦争]

第 十 六 回








 「ふぅーん…」ナルホーがタブレットを覗き込んだ。「どうやらメモリースティックは彼の物だったみたいですね。」

 スティックの中には、車の所有者が勤めるカフェの帳簿のコピーが収められていた。探していた物だと思っていたナルホーにとって、これは苛立たしい結果であった。彼は全部の歯を抜かれて口の周りが血だらけになっている男を睨みつけた。男は激痛に悶え、口を手で覆って身を丸めていた。その時、ナルホーは帳簿の中に設計図のヒントが、隠されているかもしれないと思った。

 「船に戻って詳細な調査を行う必要がある。」ナルホーが近くにいた部下に言った。

 「直ちに撤収の準備を始めます。」部下の一人が応えた。

 「それから、アニプラ様の邪魔をしないよう、これからは私に連絡して下さい。」

 「了解。」

 「それとこの男はもう用済みですから、後片付けを宜しくお願いします。」

 ナルホーは乗って来たスピーダーの後部座席に乗り込み、タブレットで自動運転機能を入れると目的地を入力して目を閉じた。






***





 絶望の淵に立たされたミアツはソファーに腰掛けて壁を見つめていた。

 (もう終わりだ…)

 ブザー音が室内に響いた。

 突然のことにミアツの体は固くなり、心臓が縮まるような感覚を得ると同時に呼吸が浅くなった。

 再びブザー音が室内に鳴り響く。

 部屋の呼び出し音であることは分かっていたが、彼女はドアの向こう側にいるのがアニプラとその部下だと想像して震えた。

 (殺されるッ!)

 「おい!いるんだろ?開けろってばよ。」

 エヌラの声を聞いた途端にミアツの体に走っていた緊張が解けた。彼女は走ってドアのロックを解除した。分厚いドアが開き、エヌラの姿が見えた。自然とミアツの顔に笑顔が浮かぶ。

 「忘れ物した。」そう言ってエヌラがミアツを押し退けて部屋に入った。

 ミアツは彼の態度に失望したが、一人でいるのが寂しかったのであまり気にならなかった。彼女はエヌラの後を追い、彼が部屋を去る前に一緒に行動しようと言おうとした。

 すると、フェイスタオル、歯ブラシ、綿棒を持ってエヌラがバスルームから出てきた。

 「ねぇ…」ミアツが話し掛けた。

 エヌラは彼女を無視して椅子を革袋の置かれた机の隣に置いた。椅子に座ると彼はフェイスタオルをテーブルに広げ、色褪せた革袋から2丁の拳銃を取り出した。これを見たミアツは驚き、目を見開いてエヌラの動きを見守った。

 まずエヌラは回転弾倉式拳銃を手に取り、慣れた手つきで回転弾倉の斜め下にあったボタンのような物を人差し指で押した。銃身と回転弾倉がお辞儀をする様に折れ、埃で汚れた中身が見えた。綿棒を手に取ってエヌラは回転弾倉の汚れを拭き取り、次に銃身の中の汚れも綺麗に拭き取った。

 ミアツが見守る中、エヌラは黙々と作業を続けた。この時になってやって彼女は、エヌラが掃除している拳銃が他の物と違うことに気付いた。勿論、彼の銃が旧式の火薬拳銃であることは知っていたが、その拳銃には二つの銃身が上下に並んでおり、ミアツは似た拳銃を見たことがなかった。上の銃身は長くて細いが、下の銃身は太くて上の銃身よりも短いのだ。

 不思議な銃に見惚れている間にエヌラは掃除を終え、次に短い銃身が上下に並んだ拳銃を手に取った。こちらも先ほどの銃同様に銃身が折れて下を向き、エヌラが新しい綿棒を使って汚れを拭き取った。

 「その銃をどうするの?」とミアツ。

 「決まってるだろ。」エヌラが革袋を引っくり返して、テーブルの上に数発の銃弾を落した。小さな銃弾が5つ、大きな散弾銃用の銃弾が3つ。

 「どうするのさ?」ミアツは苛立った。

 「ナマズの仇を取りに行く。」エヌラが掃除した拳銃に弾を込めて言った。

 ミアツは驚いてすぐ口を開くことができなかった。しかし、どうにか気を落ち着かせて口を開いた。

 「そんなの無理だって!相手はあの探し屋だよッ!逃げた方がいいって!」

 「じゃ、逃げろよ。俺は行く。」椅子から立ち上がり、エヌラは回転式弾倉銃をベルトの左側に差し込んだ。銃把の底部が正面を向いており、素早く抜くには向いていないように見えた。もう一丁はベルトの腰部分に差し込んだ。

 「アイツらのいる場所が知りたい。心当たりはあるか?」エヌラがミアツを見た。

 「調べれば分かると思うけど…止めた方が良いって。アイツらは下手な軍隊より強いんだよッ!」

 「そんなの知ったこったねぇてばよォ!これ以上、大切な物を失う訳にはいかねぇんだッ!」

 ミアツはエヌラの勢いに押された。

 (コイツ、こんなキャラだったっけ?)

 「調べれば分かるって言ったけど、どうなんだい?分かるんかい?」エヌラが尋ねた。

 「あれだけの有名人だから、ニュースとか動画投稿サイトを見れば、居場所が特定できるかも…」

 「んじゃ、頼むってばよ。」

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第十五回 [銀河極小戦争]

第 十 五 回








 目覚めると白い天井が見えた。

 柔らかい枕とマットレス、滑らかなブランケットに包まれた状態は非常に心地よかった。ふと左に視線を送ると、椅子に座るミアツが見えた。

 「きゃー、ケダモノォー!もうお嫁に行けなぁーい!」エヌラが起き上がって奇声を上げた。

 ミアツは椅子から立ち上がって、エヌラの頬に往復ビンタを喰らわせた。強烈なビンタを受けたエヌラは呆気に取られ、自分を殴った女性の顔を見つめることしかできなかった。

 (な、何で?)

 ミアツの目は赤く腫れており、先ほどまで泣いていた様に見えた。彼女は両手で潤んだ目を擦ると、早足でバスルームに入って行った。

 (ここってホテル…?まさか!あの女、やっぱり俺に気があったのか…)エヌラはベッドから降りて部屋を見回した。
大きい窓から外の景色が良く見え、室内に置かれた家具は全て高級品であった。

 (雰囲気でスイッチが入るタイプだったのか…。なるほどねぇ~)

 勘違い変態男は立ち上がってミアツの後を追ってバスルームへ行こうとしたが、その途中で円形テーブルの上に置かれた革袋を見つけた。

 「ナマズ…」エヌラがやっと同棲相手のことを思い出した。彼は急いでバスルームへ向かい、もうすぐ辿り着くところでミアツが出てきた。

 「どうしたのよ?」とミアツ。

 「ナマズは?ナマズは何所に?あの後、何があったんだ?」ミアツの両肩を掴んでエヌラが尋ねた。

 「ナマズさんは…」ミアツが俯いた。

 「一体何があったんだよ!」エヌラが強く彼女の肩を揺すった。

 「スペース・ア・ゴー・ゴーに襲われたの。逃げる途中でナマズさんが負傷して…もしかしたら…殺されたかもしれない…」

 エヌラの顔から血の気が引いた。「スペース・ア・ゴー・ゴーって、あの盗賊団か?何でアイツらに狙われるんだよ!」

 「ごめんなさい…」体を震わせてミアツが床に崩れ落ちた。「私のせいなの…」

 エヌラは状況が掴めず、座り込んだミアツを見ることしかできなかった。

 「アイツらが私の勤める研究所を襲撃してきたの。」ミアツが語り始めた。「目的は研究中の兵器の設計図で、局長は私に設計図を持たせて逃がしてくれたの。」

 仕方なくエヌラも床に座り込んでミアツの話しに耳を傾けた。

 「脱出ポッドを使って逃げてきたけど、追手を警戒してボディーガードを雇ったの。それがアナタだった…」ここでミアツが言葉を詰まらせた。「アナタとナマズさんを巻き込むつもりはなかったの…ごめんなさい…」

 「じゃ、狙われてるのはお前で、俺じゃないんだ…」エヌラは立ち上がり、部屋の出口に向かって歩き出した。

 「何所に行くの?」とミアツ。

 「逃げるのさ!俺とお前は全く無関係だからな!」

 ミアツは言い返すことができなかった。去ろうとしている男の言っていることは正しく、ナマズの死に罪悪感を持っている彼女はエヌラを呼び止めることができなかった。

 廊下に出たエヌラであったが、これから何所へ向かえばいいか分からなかった。

 (このままでいいのか?)頭の中から声が聞こえてきた。

 「うるさい!」エヌラが誰もいない廊下で怒鳴った。

 (お前はいつも失ってばかりだ。コールも、ランバートも、ナマズも、お前が弱いから死んだ。)

 「違う!俺のせいじゃないッ!」

 (逃げ続けても無駄だ。)

 「もう殺し合いなんて懲り懲りなんだよ…」

 (お前が求めていなくても、暴力を好む連中はゴロゴロいる。)

 「他の奴らの事なんてどうでもいいッ!」

 (お前のために命を投げ出した〝バカ〟がいたことを忘れるなよ。アイツらのお陰で〝俺たち〟は生きてるんだ…)

 エヌラは歯を食い縛って赤い絨毯の敷かれた床を見た。

 (別に復讐を強制している訳ではない。逃げることも時には必要だが、立ち向かわなければならない時もある。)

 「ずっと出てこなかったのに、こんな時に限って…」そう呟きながら、エヌラはミアツのいる部屋へ引き返した。

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第十四回 [銀河極小戦争]

第 十 四 回









 しばらく順調に歩き続けていた〈彼〉であったが、突然の頭痛に襲われて歩くスピードを落とした。頭痛は次第に激しくなり、吐き気を催すほど強さを増した。

 (クソッタレめッ!)

 「ちょっと待ってよ!」ミアツが〈彼〉の右肩に触れた。

 すると、糸の切れた人形のように〈彼〉は地面に崩れ落ち、そのまま目を閉じて動かなくなった。

 これを見たミアツは動揺し、歩行者の中にも心配して立ち止まる人が何人かいた。助けを求めることもできたが、ミアツはアニプラから逃げるために自力で〈彼〉の体を起こし、走行中の無人タクシーを捉まえて乗り込んだ。

 「どちらまで行かれますか?」フロントガラスに文字が表示されると同時に、音声が聞こえてきた。

 「ここから近い宿泊施設に行って!」とミアツ。

 「付近に宿泊施設が12件あります。どちらに―」

 「その中で一番セキュリティーがしっかりしてる場所にして!急いでッ!」

 「かしこまりました。」

 無人タクシーは最短ルートを通って、襲撃された地点から三百メートル離れたホテルに到着した。ミアツはドアに設置されている小さな赤い四角形に腕時計を近づけ、数秒経つと四角形が煌々と光ってドアが開いた。

 「ご利用ありがとうございます。」

 ミアツは急いで<彼>をタクシーから降ろし、ホテルのドアで待機していた人型ロボットを呼んだ。ドアマン・ロボットは軽々と<彼>を持ち上げてホテル内へ運んだ。



***



 ナマズの死体を車から降ろし、アニプラの部下たちが車内を徹底的に調べ上げた。

 車のあらゆる部品を透視スコープで検査したが、目を引く隠しポケットなどはなかった。質素な車内にあったのは、小さなフラッシュメモリーだけであった。他の発見といえば、車に付けられていた番号から所有者が判明したくらいであった。この所有者は大型商業施設『癒着』のカフェに勤める男性であった。

 「そいつを連れて来い。」アニプラが隣にいた男に言った。

 男は3つに折り畳むことができるタブレット端末を取り出し、施設内を捜索していた仲間に車の所有者の情報を送った。

 「それでメモリースティックの中身は?」アニプラが同じ男に尋ねた。

 「暗号化されているため、解析に時間が掛かっています。しかし、これだけの暗号がされているということは、これは間違いなく例の物でしょう。」

 「そうか…」犬人間の口元が緩んだ。

 (ようやく休みがもらえそうだな…)アニプラはカズヤンに急いで報告を済ませ、犬人間種が運営しているクラブへ行こうと考えた。(しかし、逃げた二人を追う必要もあるな。それはナルホーたちに任せるとするか…)

 「ナルホー。」アニプラが隣にいる男を見た。「俺はカズヤン様にこの事を報告する。お前はここで指揮を執り、逃げた二人を捕まえろ。」

 「分かりました。」

 アニプラはその場を後にしようとしたが、ナルホーが彼を呼び止めた。

 「アニプラ様!その二人は生け捕りにすべきですか?」

 犬人間が肩越しに部下を見た。「お前の好きにしろ。」

 「ありがとうございます。」ナルホーは歩き去るアニプラの背中に向けて一礼した。

 右頬に火傷を持つナルホーは商業施設の監視カメラの映像にアクセスし、エヌラたちの姿を探し求めた。彼の使用した人工知能は与えられた情報を基に、それと一致する人物を映像から抽出した。

 作業に夢中になっていた彼の許に、二人の男に連れられたタキシード姿の男がやって来た。

 「彼が車の所有者ですか?」タブレットから顔を上げずにナルホーが言った。

 「はい。」男の一人が答えた。その頃、壊れた自分の車を見たタキシードの男は唖然としていた。

 「では、まず歯から抜いて行きましょう。」



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第十三回 [銀河極小戦争]

第 十 三 回









 長い眠りから覚めたように体が重く感じられた。

 起き上がると、胸から血を流している男と後部座席で震えている女が見えた。

 視界が少し霞んでおり、目の焦点を合わせることが難しかった。それでも〈彼〉は近づいてくる男たちが武装していることに気付いた。

 (ドスタムの手下か…?)

 黒いマスク姿の四人がスピーダーに近づき、二人が運転席と助手席のドアに移動した。

 「設計図を探せ。」運転席側にいた男が言った。男はドアを開けて胸から血を流しているナマズの様子を窺った。

 助手席側にいた男も同様にドアを開け、助手席に座っている男を見た。

 <彼>は薄目を開けて左右のドアを開けた男二人と、彼らを見守るようにして車の斜め前に立つ男二人の動きを見ていた。そして、助手席のドアを開けた男の左手が〈彼〉の上着のポケットに伸びた瞬間、〈彼〉は素早く左肘を上げて男の手にあった銃を逸らし、右手で男の首筋を掴んで手前に引いた。それと同時に〈彼〉は左手で男の腰に取り付けられていた光線式拳銃を取り、運転席側のドアを開けた男の首を撃ち抜いた。

 一方、車の前にいた男二人が短機関銃を構えようとした時、〈彼〉は掴まえていた男の後頭部に光線弾を叩き込んだ。そして、目にも止まらぬ速さで短機関銃を構え終えた男二人の頭部を撃ち抜いた。

 (非文明的な武器だ…)〈彼〉は後頭部を撃ち抜いた男を外に放り投げ、死体の上に光線式拳銃を投げた。

 「おい!」〈彼〉が後部座席にいたミアツに声をかけた。「お前ら、誰だ?」

 恐怖に震えていたミアツはすぐ答えられなかった。

 「お前は…エヌラか?<ガンスリンガー>か?」血を吐きながらナマズが〈彼〉に尋ねた。

 「<ガンスリンガー>はもういない。ローランドは死んだ…」

 「エヌラは眠ったか…」ナマズが呟いた。「何者かが、後ろにいる女を殺そうとしている。」

 「俺には関係のない話しだ。」〈彼〉が車から降りた。

 「お前がそう思っていても、連中はお前もその女の仲間だと思っている。だから、立ち去っても無駄だ。」ナマズの口角が少し上がった。

 <彼>は運転席に座るナマズを睨みつけた。しかし、ナマズは怯まずに後部座席に目を向けた。

 「女がお前の銃を持っている。持って行け…」

 <彼>は助手席から後部座席で震えていたミアツを覗き込み、彼女の持っていた革袋を確認すると、身を乗り出してそれを取り上げた。その重さを右手に感じて〈彼〉は妙な懐かしさを覚えた。

 「早く行け。追手が来るぞ…」ナマズが再び口から血を吹き出した。

 <彼>はその姿を見て鼻で笑い、地上へと続く道を歩き始めた。

 ミアツはその後ろ姿を見続けた。

 「何をしてるの!早くアイツの後を追わんかいな!」全身赤タイツ姿の男がミアツを怒鳴りつけた。「追手が来るぞい!」

 「あなたはどうするの?」とミアツ。

 「もう分かるじゃろ?ワシはもうここまでじゃ…。アンタだけでも逃げなさいな…」

 「あ、ありがとう…」ミアツは急いで車から降りて〈彼〉の後を追った。しかし、彼女は何度もナマズの方を振り返り、その度に全身赤タイツの男は笑顔を浮かべてミアツを安心させようとした。

 そして、彼女の姿が見えなくなった頃、アニプラがナマズの前に現れた。

 「他の二人は何所だ?」犬人間が回転弾倉式散弾銃を、運転席で死にかけているナマズの胸に押しつけた。

 「知らねぇずら…」ナマズが薄ら笑いを浮かべて言った。

 苛立ったアニプラは引き金を絞った。

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第十二回 [銀河極小戦争]

第 十 二 回










 全身赤タイツのナマズを見るなり、ミアツが引き金を絞った。しかし、何も起らなかった。

 「ちょっと!アンタ、何やってんのよ!」ナマズがミアツを怒鳴りつけた。

 ミアツは彼の死を予想していたので、驚いて口を大きく開けた。

 「早くここから逃げないと応援が来るかもしれないわよ!」全身赤タイツの男がコタツの下に張付けてあった別の財布をもぎ取った。

 「そうだな…」エヌラが立ち上がった。「逃げよう…」

 彼はミアツが握っている銃を見ないようにして小屋から出た。貴重品を集めたナマズもエヌラを追い、ミアツも急いで銃を革袋に戻して段ボール小屋から飛び出した。

 ナマズが適当に見つけたスピーダーの鍵を解除し、運転席のドアを開けた。

 大きな銃声が地下駐車場内に響き、ナマズの体がスピーダーに叩きつけられた。血と肉片が周囲に飛び散り、エヌラが悲鳴を上げた。

 ミアツが周囲に目を配ると、長い銃身と大きな回転弾倉を備えた拳銃を持つ犬人間を目撃した。

 (あれが噂の『探し屋』?)彼女は急いで座席の陰に隠れた。

 エヌラの悲鳴が車内に響く中、ナマズがどうにかしてスピーダーに乗り込んでエンジンをかけた。

 三人が乗るスピーダーに銃口を向け、アニプラが撃鉄を親指で落としてエヌラに狙いを定めた。

 「うるせぇ野郎だ…」そう呟いて探し屋のアニプラが引き金を絞った。

 しかし、着弾の直前にエヌラがナマズに抱きついて銃弾を回避した。

 (なっ?)

 動揺しながらもアニプラが親指を再び撃鉄に伸ばした時、ナマズが力を振り絞ってスピーダーの自動運転を起動させた。スピーダーのブースターが点火し、車体が少し浮き上がった。

 エヌラは被弾したナマズの体にしがみつき、ミアツはシートベルトを掴んで衝撃に備えた。

 三人を乗せたスピーダーがゆっくりと発進し、加速しながら出口へ向かった。

 (逃がすか!)

 アニプラがスピーダーの運転席に座るナマズの頭に銃を向け、素早く引き金を絞った。しかし、弾が発射されると同時にスピーダーが左折して地上へ上がる通路に出た。

 (クソがッ!)

 アニプラは走りながら銃把の少し上にあるレバーを押し、回転式弾倉を左横に展開させて銃口を上に向けると三つの空薬莢を床に落とした。彼の銃は旧式と言われる火薬式であり、アニプラの物は三発の散弾銃用の銃弾を用いる珍しい様式であった。

 空薬莢を弾き出す間、アニプラは左手で新しい三発の銃弾を掴んで素早く再装填を行なった。そして、彼は逃げるスピーダーに向けて再度発砲した。銃弾は車体に命中したものの、損害を与えることはできなかった。彼らの距離は次第に広がり、スピーダーは既にアニプラから五百メートルは離れていた。

 スピーダーはさらに加速して地上に出ようとしていた。だが、その直前に二台の装甲スピーダーが現れ、エヌラたちを乗せたスピーダーの自動運転装置が減速を開始した。それでも間に合わず、彼らのスピーダーはアニプラの部下が乗ったスピーダーに激突した。

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第十一回 [銀河極小戦争]

第 十 一 回










 七人の男が扇形の陣形を保ちながら、壁と同化していた段ボール小屋に銃撃を加えていた。

 すると、段ボール小屋から全身赤タイツ姿の男が現れた。男は這って出てきたが、服装が目立つためにすぐに発見され、彼らの標的となった。

 銃口が向けられる直前、アーマ・ナマズは立ち上がって左端にいた男に接近した。その動きは人間離れしており、近づいてくる全身赤タイツ男に発砲しても、左右に移動して銃弾を回避した。

 他の仲間たちはナマズを追うようにして銃撃を加えたが、ナマズと左端にいる仲間の距離が近づくと引き金から指を離した。下手に深追いをすれば仲間に被害が出るからである。

 距離が1メートルと迫ると、男の持っていた短機関銃の弾倉が底を尽きた。男は急いで腰に取り付けてあった『スタン・フィスト』と呼ばれる、スタンガンとメリケンサックが融合した武器に手を伸ばした。右手がそれに触れると同時に、ナマズの右ラリアットが男の喉を襲った。

 アーマ・ナマズが素早く、左手に握られていたボールペンで男の首を刺し、右手で男を押し退けた。男の首筋から大量の血が吹き出したが、ナマズがそれを浴びることはなかった。彼は次の標的に向かって接近を始めていた。

 だが、ナマズの動きを見た残りの『切り込み隊』メンバーたちは既に陣形を変えていた。彼らは「く」の字に似た隊列を作って、全身赤タイツ男の動きを止めようと再び銃撃を加えた。

 しかし、ナマズは動揺せず、左右の手に握られていたボールペンを両端にいた男たちに向けて素早く投げた。その直後、彼は地面を勢い良く蹴り飛ばしてジャンプし、空中で二回転しながら銃撃を華麗に回避した。

 放たれたペンの一つは右端にいた男の首に、もう一つは左端にいた男の右目に刺さった。

 (何者だ?)『切り込み隊』のリーダー『サストン』がナマズの動きを見て思った。

 ジャンプで攻撃を回避、そして、距離を縮めたナマズは陣形の真ん中にいたサストンの前に下りた。サストンが短機関銃の銃口でナマズの顔面を突こうとしたが、その前に全身赤タイツのナマズが上半身を後ろに下げ、さらに右足で『切り込み隊』リーダーの股間を蹴り上げた。予期せぬ攻撃に彼は前のめりになり、左手で股間を抑えた。

 隊長の危機に残り三人となった部下たちが、一斉にスタン・フィストを取り出してナマズに襲い掛かった。

 全身赤タイツの男はサストンの服を引いて手前に引き寄せ、左から接近して来る男二人の前に置いて盾にした。男たちのスタン・フィストがサストンの後頭部と背中に命中し、衝撃と同時に高圧電流が『切り込み隊』隊長の全身を駆け巡った。

 一方、ナマズの右側にいた男はナマズの隙を見てスタン・フィストを装着した右拳を突き出した。だが、ナマズはサストンを手前に引くと同時に、身を屈めて右側にいた男の両脚を掴んで持ち上げた。バランスを崩した男は後ろに転倒し、後頭部を床に強く打ちつけてしまった。

 この攻撃が終わった頃、全身に電流が流れて気を失ったサストンが崩れ落ちた。姿勢を低くしていたナマズは両手を床に付き、両脚を後方に素早く突き出した。全身赤タイツの男の足が、隊長を攻撃して唖然としていた男二人の股間に叩き込まれた。男たちは股間を両手で抑え、その際にスタン・フィストが触れ、二人は立ったまま数秒間、体を痙攣させた末に倒れた。

 最後にナマズは、後頭部を床に打ちつけた男のスタン・フィストを奪ってそれを相手の股間の上に落とした。男も数秒、体を痙攣させた末に気絶した。

 「ウォーミングアップで終わってしもうたのぅ~」ナマズが倒した男たちを見て呟いた。「どうやら、『ヤヴィン』の使いではないらしいが…」

 額に薄らと汗を浮かべた全身赤タイツのナマズが、穴だらけになった自宅へ引き返した。

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第十回 [銀河極小戦争]

第 十 回









 外から聞こえてきた男女の争う声を聞いたナマズは、内職作業を中断して段ボール箱で作られた家の出入り口に近づいた。すると、エヌラと見知らぬ女が室内に入って来た。

 「あっ!」ナマズと目が合ったエヌラが声を上げた。「いや、これは―」彼が弁解しようと口を開くと、全身赤タイツ姿のナマズがエヌラの右頬を平手打ちした。

 「誰よ、この女!」ナマズが鋭い目をエヌラとミアツに向けた。

 「アンタこそ誰よ!」とミアツ。

 激しい睨み合いがナマズとミアツの間で続き、エヌラはその間に逃げようとしていた。しかし、二人に見つかって部屋の真ん中まで引っ張られた。

 「誤解なんだよ、ナマズ。この女は警備会社の客だった人で、警備中に事務所が襲われて逃げてきたんだ。」エヌラは今まで起きたことを話した。

 「嘘をつくなら、もっとマシな話しを作りな!」赤いタイツ姿の二十九才になる男が財布を取り出した。「しばらく実家の方に行かせてもらいます。」

 「待ってくれ!お前がいないと―」エヌラがナマズの後を追った。

 しかし、ナマズはすぐに戻ってきた。

 「やっぱり戻ってきて―」エヌラがナマズに抱き付こうとした。彼にとってナマズは金を稼いでくれる『便利な男』なので、そう簡単に手放したくはなかった。

 「囲まれてる…」近づいてくるエヌラを押し退けてナマズが言った。

 これを聞いてミアツは怯えた。

 「誰に?」とエヌラ。

 「分からないけど、結構立派な武器を持ってる。」ナマズが慎重に外の様子を見ながら小声で応えた。「どうやらエヌラの話しは本当みたいだね…」

 「俺が嘘つく訳じゃないじゃろ!」大きな声を上げた。

 「静かにしてよ!」ミアツがエヌラに言った。「見つかったらどうするの?」

 「全部お前のせいじゃろうが!」モラハラ野郎のエヌラが再び大声を上げた。

 二人を他所にナマズが部屋の隅に置かれていた服の山へ急ぎ、狂ったように洗われていない服を掻き分け始めた。これを見たエヌラとミアツは、全身赤タイツ姿の男の気が狂ったと思った。二人がナマズを宥めようと動いた時、ナマズが大きな革袋をエヌラに放り投げた。革の生地は色褪せて白くなっていたが、袋の口を縛る紐はナマズが取り替えたのか、新しい物であった。

 それを受け取ったエヌラは目を大きく開き、色褪せた革袋をじっと見つめた。

 「捨てるのが、もったいないと思ってね…」とナマズ。

 「なんなの?その汚いの?」革袋を指差してミアツが尋ねた。

 「汚物だ!」エヌラが袋をミアツに押しつけ、その場に座り込んだ。

 革袋は想像よりも重く、ミアツは袋を落しそうになった。恐る恐る革袋の中を見ると、そこには回転式弾倉の拳銃、上下に並んだ銃身の短い拳銃、数発の銃弾があった。彼女は拳銃を袋から取り出し、それをエヌラに見せた。

 「アンタ、見かけによらず凄いんだから、これを使ってアイツらを追っ払ってよ!」

 しかし、エヌラは目を閉じて銃から顔を背けた。

 「拙者、人殺しはもうゴメンでござるよ。」エヌラが最近見たテレビドラマの主人公の台詞を真似した。

 だが、ミアツはこれに激怒してエヌラの頭を銃で殴った。鈍い音と同時に、激痛がエヌラの頭部に走った。

「何す―」

 無数の銃弾が段ボールの壁を突き破って侵入し、銃声がエヌラの声を掻き消した。室内にいた三人は急いで伏せて身を丸めた。ミアツは恐怖で震え、ナマズは顔に苛立ちを浮かべ、エヌラは失禁していた。

 銃弾は室内にある物を破壊し、その破片を周囲に撒き散らした。段ボールの壁も穴だらけとなり、崩れるのも時間の問題であった。

「仕方ないのぅ…」アーマ・ナマズが内職作業で作っていたボールペンを二本掴んだ。「すぐに戻ってくるからのぅ~」

 そう言い残して、全身赤タイツの男が這って段ボールの小屋から出て行った。

 一方、ミアツは右手の拳銃を思い出し、再びエヌラを見た。彼は寝転がった状態で下着を履き替えている途中だった。

(また臆病なスケベ野郎に戻ったみたい…)

 ミアツはエヌラが大男から救ってくれた時、彼のことを少し見直していた。だが、もう彼女の中でエヌラはただの『スケベ野郎』でしかなかった。

(銃なら私でも使える…)

 ミアツは銃把を右手でしっかり握り、弾倉の中身を確認しようとレバーやスイッチを探した。しかし、そのような物は見当たらなかった。面倒くさくなった彼女は、両手の親指で銃の撃鉄を落した。ミアツは仰向けに寝転がり、銃を両手で構えると銃口を出入り口の方に向けた。

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