第十五回 [銀河極小戦争]

第 十 五 回








 目覚めると白い天井が見えた。

 柔らかい枕とマットレス、滑らかなブランケットに包まれた状態は非常に心地よかった。ふと左に視線を送ると、椅子に座るミアツが見えた。

 「きゃー、ケダモノォー!もうお嫁に行けなぁーい!」エヌラが起き上がって奇声を上げた。

 ミアツは椅子から立ち上がって、エヌラの頬に往復ビンタを喰らわせた。強烈なビンタを受けたエヌラは呆気に取られ、自分を殴った女性の顔を見つめることしかできなかった。

 (な、何で?)

 ミアツの目は赤く腫れており、先ほどまで泣いていた様に見えた。彼女は両手で潤んだ目を擦ると、早足でバスルームに入って行った。

 (ここってホテル…?まさか!あの女、やっぱり俺に気があったのか…)エヌラはベッドから降りて部屋を見回した。
大きい窓から外の景色が良く見え、室内に置かれた家具は全て高級品であった。

 (雰囲気でスイッチが入るタイプだったのか…。なるほどねぇ~)

 勘違い変態男は立ち上がってミアツの後を追ってバスルームへ行こうとしたが、その途中で円形テーブルの上に置かれた革袋を見つけた。

 「ナマズ…」エヌラがやっと同棲相手のことを思い出した。彼は急いでバスルームへ向かい、もうすぐ辿り着くところでミアツが出てきた。

 「どうしたのよ?」とミアツ。

 「ナマズは?ナマズは何所に?あの後、何があったんだ?」ミアツの両肩を掴んでエヌラが尋ねた。

 「ナマズさんは…」ミアツが俯いた。

 「一体何があったんだよ!」エヌラが強く彼女の肩を揺すった。

 「スペース・ア・ゴー・ゴーに襲われたの。逃げる途中でナマズさんが負傷して…もしかしたら…殺されたかもしれない…」

 エヌラの顔から血の気が引いた。「スペース・ア・ゴー・ゴーって、あの盗賊団か?何でアイツらに狙われるんだよ!」

 「ごめんなさい…」体を震わせてミアツが床に崩れ落ちた。「私のせいなの…」

 エヌラは状況が掴めず、座り込んだミアツを見ることしかできなかった。

 「アイツらが私の勤める研究所を襲撃してきたの。」ミアツが語り始めた。「目的は研究中の兵器の設計図で、局長は私に設計図を持たせて逃がしてくれたの。」

 仕方なくエヌラも床に座り込んでミアツの話しに耳を傾けた。

 「脱出ポッドを使って逃げてきたけど、追手を警戒してボディーガードを雇ったの。それがアナタだった…」ここでミアツが言葉を詰まらせた。「アナタとナマズさんを巻き込むつもりはなかったの…ごめんなさい…」

 「じゃ、狙われてるのはお前で、俺じゃないんだ…」エヌラは立ち上がり、部屋の出口に向かって歩き出した。

 「何所に行くの?」とミアツ。

 「逃げるのさ!俺とお前は全く無関係だからな!」

 ミアツは言い返すことができなかった。去ろうとしている男の言っていることは正しく、ナマズの死に罪悪感を持っている彼女はエヌラを呼び止めることができなかった。

 廊下に出たエヌラであったが、これから何所へ向かえばいいか分からなかった。

 (このままでいいのか?)頭の中から声が聞こえてきた。

 「うるさい!」エヌラが誰もいない廊下で怒鳴った。

 (お前はいつも失ってばかりだ。コールも、ランバートも、ナマズも、お前が弱いから死んだ。)

 「違う!俺のせいじゃないッ!」

 (逃げ続けても無駄だ。)

 「もう殺し合いなんて懲り懲りなんだよ…」

 (お前が求めていなくても、暴力を好む連中はゴロゴロいる。)

 「他の奴らの事なんてどうでもいいッ!」

 (お前のために命を投げ出した〝バカ〟がいたことを忘れるなよ。アイツらのお陰で〝俺たち〟は生きてるんだ…)

 エヌラは歯を食い縛って赤い絨毯の敷かれた床を見た。

 (別に復讐を強制している訳ではない。逃げることも時には必要だが、立ち向かわなければならない時もある。)

 「ずっと出てこなかったのに、こんな時に限って…」そう呟きながら、エヌラはミアツのいる部屋へ引き返した。

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