第十六回 [銀河極小戦争]

第 十 六 回








 「ふぅーん…」ナルホーがタブレットを覗き込んだ。「どうやらメモリースティックは彼の物だったみたいですね。」

 スティックの中には、車の所有者が勤めるカフェの帳簿のコピーが収められていた。探していた物だと思っていたナルホーにとって、これは苛立たしい結果であった。彼は全部の歯を抜かれて口の周りが血だらけになっている男を睨みつけた。男は激痛に悶え、口を手で覆って身を丸めていた。その時、ナルホーは帳簿の中に設計図のヒントが、隠されているかもしれないと思った。

 「船に戻って詳細な調査を行う必要がある。」ナルホーが近くにいた部下に言った。

 「直ちに撤収の準備を始めます。」部下の一人が応えた。

 「それから、アニプラ様の邪魔をしないよう、これからは私に連絡して下さい。」

 「了解。」

 「それとこの男はもう用済みですから、後片付けを宜しくお願いします。」

 ナルホーは乗って来たスピーダーの後部座席に乗り込み、タブレットで自動運転機能を入れると目的地を入力して目を閉じた。






***





 絶望の淵に立たされたミアツはソファーに腰掛けて壁を見つめていた。

 (もう終わりだ…)

 ブザー音が室内に響いた。

 突然のことにミアツの体は固くなり、心臓が縮まるような感覚を得ると同時に呼吸が浅くなった。

 再びブザー音が室内に鳴り響く。

 部屋の呼び出し音であることは分かっていたが、彼女はドアの向こう側にいるのがアニプラとその部下だと想像して震えた。

 (殺されるッ!)

 「おい!いるんだろ?開けろってばよ。」

 エヌラの声を聞いた途端にミアツの体に走っていた緊張が解けた。彼女は走ってドアのロックを解除した。分厚いドアが開き、エヌラの姿が見えた。自然とミアツの顔に笑顔が浮かぶ。

 「忘れ物した。」そう言ってエヌラがミアツを押し退けて部屋に入った。

 ミアツは彼の態度に失望したが、一人でいるのが寂しかったのであまり気にならなかった。彼女はエヌラの後を追い、彼が部屋を去る前に一緒に行動しようと言おうとした。

 すると、フェイスタオル、歯ブラシ、綿棒を持ってエヌラがバスルームから出てきた。

 「ねぇ…」ミアツが話し掛けた。

 エヌラは彼女を無視して椅子を革袋の置かれた机の隣に置いた。椅子に座ると彼はフェイスタオルをテーブルに広げ、色褪せた革袋から2丁の拳銃を取り出した。これを見たミアツは驚き、目を見開いてエヌラの動きを見守った。

 まずエヌラは回転弾倉式拳銃を手に取り、慣れた手つきで回転弾倉の斜め下にあったボタンのような物を人差し指で押した。銃身と回転弾倉がお辞儀をする様に折れ、埃で汚れた中身が見えた。綿棒を手に取ってエヌラは回転弾倉の汚れを拭き取り、次に銃身の中の汚れも綺麗に拭き取った。

 ミアツが見守る中、エヌラは黙々と作業を続けた。この時になってやって彼女は、エヌラが掃除している拳銃が他の物と違うことに気付いた。勿論、彼の銃が旧式の火薬拳銃であることは知っていたが、その拳銃には二つの銃身が上下に並んでおり、ミアツは似た拳銃を見たことがなかった。上の銃身は長くて細いが、下の銃身は太くて上の銃身よりも短いのだ。

 不思議な銃に見惚れている間にエヌラは掃除を終え、次に短い銃身が上下に並んだ拳銃を手に取った。こちらも先ほどの銃同様に銃身が折れて下を向き、エヌラが新しい綿棒を使って汚れを拭き取った。

 「その銃をどうするの?」とミアツ。

 「決まってるだろ。」エヌラが革袋を引っくり返して、テーブルの上に数発の銃弾を落した。小さな銃弾が5つ、大きな散弾銃用の銃弾が3つ。

 「どうするのさ?」ミアツは苛立った。

 「ナマズの仇を取りに行く。」エヌラが掃除した拳銃に弾を込めて言った。

 ミアツは驚いてすぐ口を開くことができなかった。しかし、どうにか気を落ち着かせて口を開いた。

 「そんなの無理だって!相手はあの探し屋だよッ!逃げた方がいいって!」

 「じゃ、逃げろよ。俺は行く。」椅子から立ち上がり、エヌラは回転式弾倉銃をベルトの左側に差し込んだ。銃把の底部が正面を向いており、素早く抜くには向いていないように見えた。もう一丁はベルトの腰部分に差し込んだ。

 「アイツらのいる場所が知りたい。心当たりはあるか?」エヌラがミアツを見た。

 「調べれば分かると思うけど…止めた方が良いって。アイツらは下手な軍隊より強いんだよッ!」

 「そんなの知ったこったねぇてばよォ!これ以上、大切な物を失う訳にはいかねぇんだッ!」

 ミアツはエヌラの勢いに押された。

 (コイツ、こんなキャラだったっけ?)

 「調べれば分かるって言ったけど、どうなんだい?分かるんかい?」エヌラが尋ねた。

 「あれだけの有名人だから、ニュースとか動画投稿サイトを見れば、居場所が特定できるかも…」

 「んじゃ、頼むってばよ。」

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