続きが気になる?って人はいないさ! [余談]

 日本は大変な状況ですが、もともと安全保障に疎い人(意図的?それとも天然?)がいるので、この状況は長引くでしょうね。

 はい。それでは今日は残念なお知らせがあります。

 ハヤオの書いている『S.N.A.F.U.』ですが、第7話の公開が決まってしまいました。

 WNファンとしては残念ですが、決定してしまいました。理由はアクセス数とかではなく、個人的に8話までならブログで公開してもいいんじゃないか?と思ったからです。

 それ以降はハヤオの物語を読んでいる人たち(いないと思いますが…)の反応によると思います。

 事実、ハヤオの物語を通してWNを知った人もいるので、多少の広告的な効果はあるのかもしれません。

 さて、第6話ですが…「第5話がなかったような話しになってないか!?」って言われました。他にも「半田の言ってた『いい人』って誰だったんだよ!?」とか私に言われても困る質問がありました。

 そこで私はハヤオに上記の問いについて聞いてみました。

 1、第6話って本当に第5話の後の話し?

 ハヤオ:作中にも記述があるじゃん。一応、第6話は第5話から2ヶ月後の話し。その間の話しはカットした。

 2、半田が第5話の最後に言っていた『いい人』って誰?

 ハヤオ:そんなこと言ってたっけ?

 3、前の話しから2ヶ月も経ってるけど、その間に何があった?

 ハヤオ:そこら辺の望月と野間たちの話しは9と10で説明する。『紅蓮』について言えば、準備期間中だったのよ。JCTCは通常通り営業中だったので忙しかったさ。でも、井上は中島と、浦木は半田と修行してたの。

 4、第7話と第8話で『紅蓮』を倒すの?

 ハヤオ:倒す。第7話は次の話しへの橋渡し、第8話はアクションパックです。

 5、こんな妄想して楽しいですか?

 ハヤオ:その質問をする根拠は何ですか?エビデンスを提示して下さいよ、総理!

 以上が質問に対するハヤオの答えです。

 他に質問があったら、ハヤオに直接Twitterで質問して下さい。

 ちなみに第7話の公開日は来月下旬頃です。 

 それでは、皆さん、お体に気を付けて!
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S.N.A.F.U. (6) 後編 [S.N.A.F.U.]

 壁に沿うようにして一列に並んで進む人々は前を歩く人の背中に手を置き、先頭にいる短機関銃を持つ男が左拳を上げると止まって息を潜めた。

 廊下には血溜まりの中で倒れる看護師や入院服姿の人、診察に来ていた人々の死体があり、中には重傷を負った人が彼らに助けを求めることもあった。その場合は急いで止血して、すぐに戻ってくることを伝えて先を急いだ。

 曲がり角に差し掛かると、先頭の井上が左拳を上げて後ろにいる人々に止まるよう合図を出し、短機関銃を構えた状態で上半身を少し右に傾けて曲がり角から身を乗り出した。これから進もうとしている道にはうつ伏せに倒れている入院服を着た女性と男性看護師がおり、死体の手前に非常階段の入り口があった。その廊下の先には超音波検査室があるだけで、人の気配は感じられなかった。

 安全を確認すると井上は角を曲がり、素早く反対側の壁へ移動すると下向きの半円を描くように銃口を移動させて後方と左右の確認を行う。そして、彼は左手で手招きして後続の人々に角を曲がるように合図を送った。その間、捜査官は前後左右に注意を払い、全員が角を曲がり終えるのを確認すると再び下向きの半円を描くように銃口を移動させて非常階段を目指した。

 井上の真後ろには岩田がおり、彼女は捜査官の着ている襟付きの半袖シャツの裾を掴もうとしたが、井上はいざという時の移動の際にケガをする恐れがあるから背中に手を置くように言った。この背中に手を置く行為は、離れずに行動するためである。

 一行は非常階段の入り口に近づいた。井上は入り口の手前で止まり、再び左拳を上げて止まれの合図を出すと上半身を少し左へ傾け、非常階段の踊り場と下に続く階段へ素早く銃口を向けた。そこに人影はなかったが、捜査官は1階へ続く階段に銃口を向けたまま踊り場へ進み、次に上階に続く階段へ銃を向けた。踊り場の安全を確保し、井上は人々を踊り場に集めた。

 「もう少しの辛抱だから頑張って下さい」井上は踊り場に集まった人々に笑顔を向けた。それでも人々の顔は緊張と恐怖で固まっており、捜査官の言葉を聞いてもまだ安心できていなかった。

 〝班長、早くSATを投入して下さいよぉ〜〟

 そう思いながら、井上は廊下の様子を再度確認し、さらに階段の安全を確保してから1階と2階の間にある踊り場まで移動した。その際に井上は手摺りの近くに立ち、全員の移動が終わるまでそこで階段の安全確認を行なった。

 病院の裏口が近いこともあっても人々の気持ちは昂り、この緊張状態が逃げ出したいスーツ姿の中年男性が突然階段を駆け下りた。彼に続いて3人の男女が裏口を目指して走り出した。

 「ま、待て!」井上が左手を伸ばして止めようとしたが、走り出した4人は1階の廊下に飛び出して右へ移動した。「クソッ!」

 身勝手な行動を取った4人の身を案じた捜査官は急いで階段を下り、階段の入り口に到達すると素早く廊下に銃口を向けて脅威の有無を確認した。異常なし。

 再び右へ視線を向けると、走って裏口に向かう4人の姿を確認した。病院の裏口まで約20メートルほどあるように見えた。井上は1階と2階の間にある踊り場で待機していた人々に近くに来るよう手招きし、走って逃げる4人の後ろ姿を見守った。

 〝クソッ!SATの突入とアイツらが鉢合わせしないようにしないと…〟井上はスマートフォンを取り出して半田へ電話をかけた。

 「井上か?」彼の上司はすぐに応えた。

 「SATの突入はいつですか?」

 「まだ警視庁の判断を待っている。」

 半田の言葉に井上は戸惑った。

 「短機関銃を持った奴らがまだ病院内で暴れてるんですよ?何を迷う必要があるんですか?」

 「俺からも突入するよう掛け合っているが、警視庁は決断を渋っているんだ。お前は大丈夫なのか?」部下の身を案じている半田が尋ねた。

 「オレは大丈夫で−」

 断続的な轟音が廊下に鳴り響き、裏口に向かって走っていたスーツ姿の中年男性が一瞬、宙に浮いて床に落ちた。彼の後ろを追っていた高齢の男性は驚いて動きが止め、その間に左腕と首に複数の銃弾を受けた。高齢の男性は見えない何かに押されたように、右へ弾き飛ばされて床に叩きつけられた。

これを目撃した後続の2人の内、若い男性は走る速度を上げて裏口を目指し、もう一人の中年女性は悲鳴を上げて引き返し始めた。

銃声を耳にすると、井上と共に行動していた人々が悲鳴を上げ、怯えた3人が上の階へ逃げようと走り出した。その後に続々と人が続き、残ったのは岩田と彼女の同僚、足の不自由な高齢男性、10代の若いカップル、そして、7歳くらいの少女であった。

 井上は引き返して逃げてくる女性を救おうとした時、裏口に近い十字路の左側から黒い服の二人組が姿を現れた。

 「伏せろッ!」

 井上が女性に向かって叫んだが、逃げることに必死な彼女の耳に捜査官の声は届いておらず、女性は背中に複数の銃弾を浴び、頭から床に落ちて息絶えた。

 一方、裏口に向かっていた若い男性は自動ドアを抜けて外に出ることに成功していた。日光を浴びた男性が外の空気を吸うと、頭部と背中に銃弾を浴びて地面に崩れ落ちた。この光景は近くの建物から中継を行なっていた複数のテレビ局のカメラに捉えられていた。

 〝クソッタレ!〟

 井上は二人組の男に向けて銃撃を加えながら岩田の近くへ移動した。

 「上に逃げるんだッ!」捜査官は襷掛けしていたメッセンジャーバッグから短機関銃の予備弾倉を1つ取って言った。「それと−」

 まだ半田との通話が繋がっているスマートフォンを岩田に渡そうとした時、井上たちの足元に深緑色の手榴弾が転がってきた。捜査官は咄嗟にそれを蹴り飛ばし、手榴弾は壁にぶつかって、持ち主の近くへ向かって飛んだ。素早く井上は岩田に覆い被さって爆発に備えた。廊下から悲鳴のような声が聞こえたかと思うと、破裂音と爆風が井上の背中を襲った。

 「電話の人に状況を説明して欲しいんだ!」スマートフォンを看護師の岩田に渡して井上が叫んだ。「できるだけ奴らの気を引くから、安全な場所に隠れて!」捜査官は素早く短機関銃の弾倉を交換した。

 「井上さんは?」反対側の壁へ移動しようとした井上の腕を掴んで岩田が尋ねた。

 「ちょっとだけ時間稼ぎをするよ。すぐに合流するから!」捜査官は笑みを浮かべ、左腕を掴む彼女の手を優しく解いた。

 「一緒に逃げようよ!」岩田は再び井上の腕を掴んだ。

 「すぐに後を追うから。大丈夫だよ。」

 廊下から再び断続的な銃声が聞こえ、銃弾が非常階段付近の壁にめり込んだ。

 「すぐに追いつくからッ!」焦りを覚えた捜査官は女性看護師から素早く離れ、反対側の壁を移動すると壁から少し身を乗り出して短機関銃を発砲する2人の男に向けて銃撃を加えた。「早く行くんだッ!」まだ階段で立ち止まっている岩田とその後ろにいる人々に向けて叫んだ。

 今までに見たことのない井上の表情を見た岩田は下唇を噛んだ末、背後に控えていた人々と共に来た道を引き返し始めた。

 視界の隅でそれを確認した井上は再び壁から少し身を乗り出し、襲撃者たちに銃撃を加えた。彼は3、4発の銃弾を発射させるように人差し指で引き金を操作し、相手の前進を遅らせようとした。事実、二人の男は壁の凹みに身を隠して飛んでくる銃弾から逃げた。

 岩田たちが1階と2階の踊り場に辿り着いた時、捜査官は左腕に鈍い痛みを感じて腕を確認した。着ていた襟付き半袖シャツの左袖が引き裂かれ、一筋の太い赤い線が左上腕にあった。そこからは血液が溢れ、傷を認識すると井上は苦悶の表情を浮かべて片膝をついた。すると、何かが頭上の空気を切り裂き、先ほどまで彼がいた場所に複数の小さな穴が開いた。

 井上は先ほどまで銃弾を加えていた場所と反対側の通路に視線を向けた。そこで彼は短機関銃を構える新たな二人組の男がいた。

〝まだいるのね…〟捜査官は急いで奥へ隠れ、左脇に短機関銃を挟むと右手を鞄に伸ばした。

 「井上さんッ!」岩田が弾倉を交換しようとした井上に近づいてきた。

 「何してるの?早く逃げろって!」

 「でも…」女性看護師は捜査官の腕の傷を確認した。

 〝クソッ!〟装填する時間が惜しいと思った井上は、非常時のために入れていたもう一つの短機関銃を鞄から取り出した。

 「一緒に逃げよう。」そう言って捜査官は立ち上がって階段を目指した。


 

***






 新川は左側の通りから現れた濃紺色のTシャツ姿の男が浦木の背中に押し蹴りを浴びせ、振り返った男性捜査官に素早く左右の拳を叩き込むのを見た。反応が遅れたものの、彼女は右手に持っていた拳銃を男に向けた。

 その時、右側から物音が聞こえた。女性捜査官が顔を向けると乗用車のボンネットの上をスライドして近づいてくる黒い服の男を確認した。焦った新川は銃を向けようとしたが、その前に黒い服の男の蹴りが彼女の腹部を捉えた。あまりの衝撃に女性捜査官は後ろへ飛ばされ、後方にあった軽自動車に背中を打ちつけた。

 一方、浦木に奇襲をかけた男は素早く左手を伸ばして男性捜査官の持っていた拳銃の銃身を掴み、右拳を浦木の右手首に打ち込んで拳銃をもぎ取った。間を開けずに男は右裏拳を浦木の右側頭部に向けて放った。

 銃を奪われた浦木であったが、彼は相手の動きを確認すると左手で男の右腕を止めた。そして、右手を左手とクロスさせるように突き出し、右腕で相手の右腕を遠くへ押しやりながら左斜め前へ移動した。男性捜査官は相手の右横へ移動すると、素早く左掌底を男の右側頭部に浴びせた。

 反撃を受けたことに怒った男は右拳を水平に振り、それで浦木の頭部を殴ろうとした。だが、その大振りな動きを男性捜査官は身を屈めて回避し、姿勢を低くした勢いを利用して右拳を斜めに振り下ろして相手の右膝の内側に叩き込んだ。

 激痛に男は顔を歪め、体が少し右に傾く。その瞬間、浦木は立ち上がる反動を使って、突き上げるように左掌底を相手の顎下に入れた。男性捜査官は手を止めず、右拳を相手の胸に叩き込み、続けて左手を相手の右側頭部に添えると右にあった乗用車の車体に男の頭を叩きつけた。

 その頃、新川は黒い服の男に銃を持つ右手を抑えつけられ、顔を殴られた後に首を締められた。首を襲う激痛に彼女は苦しみながらも、左手を伸ばして親指で相手の右目を突いた。男は呻き声を上げて新川から離れ、苦しみから解放された女性捜査官は咳き込んだ。

 右目を赤くした男が反撃に出ようとした時、左膝横を蹴り飛ばされた。激痛に悲鳴を上げようとした口を開こうとした途端、左側頭部を固い物体で殴られて男は殴られた箇所を抑えて前屈みになり、その隙に新川は彼の背後へ移動して相手の右膝を蹴り飛ばして膝をつかせ、男の背中に銃口を向けた。

 「あ、ありがとうございます…」黒い服の男から目を離さずに新川が助けてくれた浦木に礼を言った。

 「大丈夫ですか?」浦木は右手に持った拳銃を胸の前で構え、左手を腰の近くに置いて周囲に視線を配っていた。

 「なんとか…」左手で痛む首に触れて女性捜査官が応えた。

 「この2人を拘束しましょう。他に仲間がいるかもしれませんので、気を抜かずに。」

 浦木が周囲を警戒している間に新川は黒い服の男に手錠をかけて拘束し、少し離れた場所で気絶しているもう一人の男に近づいた。手錠を浦木から借り、緊張しながら濃紺色のTシャツ姿の男を拘束した。その間も男性捜査官は周囲に視線を走らせ、不審な人物を探していた。

 「班長に連絡します。」新川が拳銃をホルスターに戻し、スマートフォンを取り出した。

 「お願いします。」鋭い視線を配らせながら浦木が言った。「それからこの二人の持ち物を確認してもらえますか?」

 「分かりました。」右耳にスマートフォンを当てながら、新川はしゃがんで気絶している男のジーンズのポケットを確認し始めた。ジーンズの前ポケットには何も入っていなかったが、後ろポケットの左にスマートフォン、右に財布が入っていた。それらをポケットから取り出した時、呼び出し音が消えて上司の声が聞こえてきた。

 「新川、状況は?」

 「病院へ移動中に手榴弾を持ったテロリストと遭遇して…浦木さんと拘束しました。」左手に持つ拘束した男の財布とスマートフォンを見つめて新川が報告した。

 「二人ともケガはないか?」

 「大丈夫です。拘束した男から財布とスマートフォンの回収ができたので、こちらのデータをそちらに送ります。その後、病院に向かいます。」

 「いや、お前たちはそこで待機しろ。他の場所でも手榴弾を使った攻撃が起こっている。状況次第では病院でなく、他の現場に行ってもらうことになるかもしれない。」できれば、半田は新川と浦木を病院に向かわせて井上たちを助け出して欲しかった。しかし、複数の場所で攻撃が発生しており、捜査官を特定の位置に集中させることで緊急時の対応が遅れることは避けたかった。

 「分かりました。それでは浦木さんとここで待機します。その間に入手したスマートフォンと財布の情報を送ります。」

 「頼む。そして、気をつけろよ。」

 「分かりました。」





***





 黒い布の上に並べられているナイフを見て金村は腕を組んだ。

 「そんなんで良いんかい?」化粧台の椅子に座る太った男が尋ねた。

 金村は両刃のナイフを右手で取ると、手首を左右に振ったり、回転させたりして手に馴染むかどうか確認した。

 「コイツは不器用でね…」無言の金村に代わって眉毛の太い、押尾という名の男が言った。

 太った男は背もたれに体を預け、ベッドの近くでナイフを選んでいる坊主頭の男を見つめた。

 彼らは都内のビジネスホテルの一室におり、金村を見つめている男は主に動物の密輸を行っているが、細々とその密輸ルートを使って途上国の武器を売る商売をしていた。

 〝まぁ、単価は低いが、稼ぎは稼ぎ…〟男はそう思っていた。

 金村は両刃のナイフを元の位置に戻し、別のナイフを片手に取った。それは柄の先端に穴のある鎌のようなナイフであり、握ってみると小指が柄の先端にある円に当たって持ちにくい形状だった。

 「その穴に指を入れるんだ。今のアンタの持ち方だと小指を入れ、逆手持ちなら人差し指を入れる。」太った男が部屋に流れていた沈黙を破った。

 「珍しい形だな…」押尾が金村の手にあるナイフを見て言った。

 坊主頭の金村は鎌のような形状のナイフにある穴に小指を入れ、手首を回して手に馴染むか確認したが、下唇を噛んでそれを布の上に戻した。

 「これとこれにする。」金村は最初に取った両刃のナイフと刃渡り5センチほどの柄がT字型になっているナイフを指差した。

 「ケースもいるか?」足元に置いていた鞄を持って太った男が立ち上がった。

 「あぁ…」金村は布の一番端に置いてある片刃の大きなナイフを見た。

 「ケースをつけて10万だな。」茶色の鞄にあるナイフの鞘を探しながら男が言った。

 「分かった。」金村は目をつけていた片刃のナイフを取り、鞄の中身に夢中になっていた男の顎を下から突き刺した。





***
 


 
 
 手榴弾が1階の踊り場に放り込まれた。

 その時、井上と岩田は1階と2階の間にある踊り場まで移動していたが、振り返った捜査官が深緑色の転がる球体を目にすると、前を歩いていた岩田の背中を押して上階へ続く階段で伏せさせ、井上は彼女の上に覆いかぶさった。直後、破裂音と爆風が二人を襲い、男性捜査官の下で丸くなっていた岩田が悲鳴を上げた。

 爆発音を耳にした襲撃者4人は素早く1階の踊り場へ移動し、上階に向けて一斉に発砲を開始した。耳朶を震わせるような轟音が室内に響き、大量の薬莢が落ちて床に散らばった。

 「急いで!」起き上がると井上は女性看護師の背中を押し、階段の手すりから身を乗り出して応射しようとした。しかし、あまりにも弾幕が厚く、彼は動けなかった。

 その間に岩田は2階へ移動し、振り返って井上の姿を確認しようとしたが、そこに男性捜査官の姿がなかったのでパニックに陥った。

 少し弾幕が薄くなるのを期待していたが、その瞬間はなかなか訪れなかった。

 〝適当に発砲して逃げるか?〟

 そのまま逃げる選択肢もあったが、既に上階へ逃げた人々の状況が分からず、それに足の不自由な人もいたため、下手に逃げて犠牲者が出るのは食い止めたかった。ゆえに井上はできる限り、この場で襲撃者たちを食い止めようと考えていた。

 井上が階段の手摺りに背を預けて相手の様子を伺っていた頃、襲撃者たちは彼が逃げたと思って二人が発砲しながら階段を上がり始めた。残りの二人は踊り場で待機し、再装填しようと鞄に手を伸ばした。

 再装填を試みていた二人の足元に丸い円柱状の物体が転がってきた。それは出口に近い男の右足に当たって止まり、ふと足元へ視線を向けた瞬間、爆音と閃光が室内を満たした。これに4人は混乱した。彼らは視力と聴力の両方を失い、階段を上がっていた一人は足を踏み外して転んでしまった。

 閃光手榴弾が爆発すると、二名のSAT隊員が壁から身を乗り出して踊り場にいた二人の片脚を撃ち、素早く踊り場に進入して一人が上階へ続く階段へMP5短機関銃の銃口を向けた。彼は階段が落ちてくる一人の男を見つけ、その男に注意を向けた。しかし、1階と2階の間にある踊り場付近にいる別の男を発見すると、素早く銃口を動かして引き金を絞った。

 放たれた銃弾は視力と聴力を奪われて前傾姿勢になっていた男の右太腿裏に命中し、男は仰向けに倒れて踊り場に着地した。

 一方、もう一人のSAT隊員が後続の仲間と共に、脚を撃たれた二人の襲撃者を床に押し倒し、短機関銃を取り上げて拘束した。すると、階段から短機関銃を右手に持つ一人の男が滑り落ちてきた。一人のSAT隊員が壁に沿って階段を上がっている仲間を援護するために階段の上へ銃口を向け、もう一人が落ちてきた男を拘束した。

 踊り場に崩れ落ちた男の視力は戻りつつあった。そして、視界が明るくなると右手を伸ばして短機関銃の引き金に指をかけた。だが、その直後に右腕に激痛が走り、男は短機関銃を落とした。

 階段を登っていたSAT隊員は後ろにいる仲間が発砲したと思ったが、階段を登り切った時に発砲した人物が別にいたことを知った。

 「井上さんですか?」SAT隊員が上階へ銃口を向け、壁に背を預けて座っている男に尋ねた。その隣には若い女性看護師の姿があった。

 「ちょっと遅すぎるんじゃない?」井上が右手に持っていた短機関銃を右太腿の上に置いた。

 「色々とありまして…すぐに救護班を呼びますので、ここでお待ち下さい。」

 「了解…」

 井上の言葉を聞くとSAT隊員は階段を上がり、その後を3人の隊員が続いた。





***




 JCTCの局長である本郷光太郎が、第1課課長の一文字武志から渡されたスマートフォンを机の上に置いた。

 「これ以上事態を悪化させる必要はないでしょう…」本郷は自分の前に立つ3人の男を見て言った。「他にSATの突入を遅らせている場所があれば、すぐ行動するように伝えなさい。警視庁から文句が来たら、私の指示だと言って後日詳細を話すと言っておくと良い。」

 そう言って本郷は大会議室を後にした。彼は突然会議室に現れ、井上がいる病院で指揮しているSATに連絡するように言い、回線が繋がるなり突入命令を出した。電話の相手は混乱していたが、本郷が「責任は自分が取る」と言って電話を切った。

 局長の後ろ姿を見送る第1課から3課の課長たちは呆気に取られていたが、すぐに気を取り直して部下たちの方を見た。

 「突入待機をしているSATと連絡を取ってくれ!」第1課の一文字が叫んだ。

 分析官たちは急いで現場で突入の合図を待っているSAT隊員の隊長へ連絡し、回線が繋がるとそれを課長たちの電話に回した。

 右手に持っていた半田のスマートフォンが震え、彼は急いで電話に出た。

 「半田だ。」

 「井上です。」

 部下の声を聞くと半田の胸に纏わりついていた不快感が消え去った。数分前に井上と電話で話していたが、その途中で爆発音が聞こえて通話が終了していたのだ。半田は井上が重傷を負ったと思い、心配していた。

 「大丈夫か?」

 「左腕をちょっとケガしましたけど、生きてますよ。でも、SATの突入が少し早かったら、ケガしなくてすんだかもしれませんが…」

 「文句なら後で聞いてやる。まだ他の病院でも同様の事件が発生していて、SATが突入を始めたばかりだ。それに病院の付近で手榴弾を使った攻撃も起こっている。」

 「かなりヤバそうですね…」左腕の手当てを受けていた井上は、他の場所でも同様の事件が起きていることを知って驚いた。

 「浦木と新川が手榴弾を持った二人組と交戦し、拘束したとの報告があった。お陰で連中の正体が分かってきた。」半田は近くにあった机に左手を置き、作業している柄沢のPCモニターを覗きんだ。

 「この攻撃を仕掛けてる連中は何者なんですか?」と井上。

 「お前もよく知ってる組織だ。」

 「オレも?」

 「あぁ…数ヶ月前に俺たちが捜査した左翼組織だ。」
 




* * *




 草加亮の導き出した答えは「革命」であった。

 貧困という日本だけでなく、多くの国々が抱える問題を解決するためには自分たちのような貧しい人々が行動を起こし、中央政府を倒す必要がある。

 今まで母からの承認を得ることを目的として生きていた彼に新しい目的が生まれ、それは草加に活力を与えた。貧困問題を解決するために強力な敵と戦うことを考える度に、彼の胸は熱くなって使命感に燃えた。

 〝多くの人々は国の言うことしか聞かない操り人形だ。このままではダメなんだ。誰かが立ち上がらないと!〟

 腐敗した政府との戦うことこそ自分の使命だと思った草加は大学の勉強を疎かにして、貧困に関するセミナーに参加したり、インターネットの掲示板で意見交換を行うようになった。インターネット、特にソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)は彼と同じ意見を持つ人々と出会う機会を与えてくれた。草加はSNSで知り合った人々と様々な情報を交換し、自分たちの運動を多くの人に知ってもらい、大衆を食い物にしている中央政府を打倒しようと考えていた。

 SNSで情報交換をしていたある日、草加は時の内閣が国会に提出した法案に反対する学生団体の存在を知った。その団体は『テイク・アクション』と名乗っており、多くの若者に「行動を起こそう」と訴えていた。彼らの理念に同調した草加は積極的に『テイク・アクション』の活動に参加するようになり、気付いた時には貧困問題に詳しい人物として団体の中でも一目置かれるようになっていた。

 彼の熱心な姿勢から『テイク・アクション』は草加を貧困問題を担当するサブ・リーダーとした。『テイク・アクション』にリーダーは存在せず、サブ・リーダーしかいない。これは中央政府が進める一極集中主義への批判、そして、強いリーダーの存在が腐敗に繋がると思っていたからであった。

 『テイク・アクション』はメディアに取り上げられ、その知名度は一気に上がり、一部の学者や野党の政治家までも彼らのデモ活動に参加するようになった。大衆の注目を浴びて、草加は目指していた「革命」は近いと思い、デモ行動中に歓喜して涙を流した。

 メディアに取り上げるられることで、デモに参加している人々は支持を得られると思っていたが、大衆からの視線は冷ややかであった。それでも『テイク・アクション』と彼らを応援する人々は気にせず活動を続け、国会で審議されている法案を廃棄に追い込もうとした。

 しかし、その法案は可決した。草加はこれに猛反発し、反対のデモ行動を起こすべきだと仲間に訴えた。

 「もう無理でしょ。通っちゃったし…」仲間の一人が言った。

 「そうですよ。また頑張りましょうよ、草加さん!」別の仲間が笑みを浮かべてビールを飲んだ。

 〝何を言ってるんだ…?〟

 草加は混乱した。彼と一緒に活動していた人々は同じ志を持っていたのに、法案が可決した途端にまるで何もなかったかのように振る舞っている。

 〝コイツらも他の連中と変わらない。コイツらも政府に洗脳されているんだ。僕だけだ…僕だけが政府の思い通りにならない『特別な存在』なんだ…〟

 『テイク・アクション』に失望したのは草加だけではなかった。彼と同じような不信感を抱くメンバーも中にはいた。

 「新しい組織を作ろう…」草加は『テイク・アクション』の活動方針に不満を持っているメンバー数人を集めて言った。

 集められた数人は彼の言葉を聞くと胸を躍らせ、草加の次の言葉を待った。

 「『テイク・アクション』は死んだ…いや、あの組織は元々、国に洗脳された連中が作り出した傀儡だったんだ。僕たちのいるべき場所ではなかった…これからが本当の戦いだ。」草加がメンバーの顔を見回した。「今日から『紅蓮』と名乗ろう…」数日前から考えていた組織の名前を言った。

 その名前を聞いた数人のメンバーは鳥肌を立てた。

 「僕たちの胸の内にある火は大きくなり、炎となった。この炎は人々の心に影響を与え、さらに大きな炎になる。そして、その炎はこの国を大きく変えるんだ。」
 



* * *




 ドアを開けた時、その男は窓の外に広がる景色を見ていた。

 押尾と金村が部屋に入ってきても、男は振り向かず、代わりにドアの横にいた別の男が反応して拳銃を押尾の左側頭部に押しつけた。

「俺だよ。押尾だ…」眉毛の太い男が拳銃を向ける男へ視線を向けた。「銃を下ろせよ、梶原。」

押尾とその後ろにいる金村を確認すると、浅黒い肌をした長身の男が銃を下ろしてそれをベルトに挟めた。

 二人が梶原という名の男に気を取られている間、外の景色を眺めていた男が振り返った。その男は白い襟付きの半袖シャツとベージュのスラックス姿であり、押尾と金村を見つけると部屋の隅にあった椅子を指差して座るように促した。

 「遅くなってすみません。」押尾がパイプ椅子に腰掛けた。「金村の尾行や買い物がありまして…」

 「大丈夫ですよ。」男が窓の近くに置いていたオフィス椅子に腰掛けた。

 突然、金村が椅子から立ち上がり、男の方を向いて土下座をした。急に彼が動いたため、ドアの横にいた梶原が銃把に手をかけ、驚いた押尾も足首に巻きつけていたナイフに手を伸ばした。

 「すみませんでしたッ!」部屋に響くくらいの大きな声で金村が叫んだ。

 「頭を上げてください」男は優しく坊主頭の男に話しかけた。「あなたの責任ではない。あれは久野さんの責任です。」

 金村は頭を上げて椅子に座る男の顔を仰ぎ見た。

 「私たちにはやらなければならないことがある。そうでしょう?」

 「はい…」そう言って金村は頷いた。

 「既に仲間たちが動いている。」男が押尾を見た。「何も問題はないですよね?」

 「はい。ありません。」眉毛の太い男が頷く。

 「それではステージ2に入りましょう。」男は床を軽く蹴って椅子を窓の方へ回転させた。

 〝革命の始まりだ…〟窓の外に広がる景色を見ながら草加亮は口元を緩めた。






(続く…事はないかもしれない!)

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第一話「背景」 [WNロスの真実(考察)]

第一話「背景」

 WNは1990年から活動を始め、独特なリズムと歌詞で多くの音楽ファンを魅了してデビュー曲『U/Ryu』はオリコンチャート974位にライクインしました。

 当初は演歌路線だったWNでしたが、1991年からR&Bやヒップポップ系の曲を多数作成して新しいファンを獲得しました。しかし、これは初期のファン離れに繋がって、当時のメインボーカルであったG3は演歌路線へ戻すことを考えましたが、先見の目があったNは「これからの時代、俺みたいに恋する自分に酔う男女が増えるだろうからR&Bみたいな曲が売れるはず…」と言って演歌から離れる決意をした。

 だが、G3はNの決定に批判的であり、2009年に発売されたエッセイ本『ベリー・ベスト・オブ・G3』にて以下のような後悔を述べている。

 「演歌路線で行っていれば、WNも氷川きよし的な地位を築き、おば様たちの支持が得られたと思うと後悔しかない。私としては若者よりもおば様たちの支持の方が魅力的なのだ。」

 R&B、そして、ヒップホップアーティストとしての道を選んだWNは、路線変更後に初めて出した『ZO.I.DO』で1995年のオリコンチャート1011位にランクインする大挙を成し遂げた。確かな手応えを感じたNとG3は演歌の作成を続けながら、メインをR&Bとヒップホップにすることを決めた。

 その後、ファーストアルバム『いつも君のそばにいたいけど、人肌って思ったより暑いじゃん?だから、適度な距離感を保たへん?』を2010年に発表し、同年のオリコンチャート1300位にランクインした。それからWNはニューヨークでチャレンジすることを目指し、多くの楽曲を日本とアメリカで提供し、あの有名な『三途の川』や『ニート』が一部地域限定で流れているCMで使用されて多くの注目を集めた。

 勢いに乗るWNは自身の経験も基に『諦めないから』、『水色の詩』、『歩道橋』、『H.O.K.U.R.E.N.』、『B.B.Snow』を生み出し、「紅白出場も夢じゃない!」とファンの間では騒ぎとなっておりました。しかし、WNは年越しライブを毎年行なっているのでスケジュールが合わなく、毎年紅白の出場を逃している。

 着実にキャリアを積んでいたWNであったが、2019年12月31日にNは以下のようなツイートをしている。

 「来年もよろちくびーむでマッスル!」

 この10万3千6百2のイイネと5リツートを得たNのツイートを境に、WNはSNSの更新を止め、さらに複数のアカウントが凍結または削除された。

 突然の事態にファンは驚くと同時に涙し、様々な憶測を呼ぶことになった。これが世にいう『WNロス』である。

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もうちょっと待って下さい [その他]

 『WNロスの真実』はかなりの労力を強いられる力作になりそうです。はい。

 現在は事件の背景について調べてますが、そうしている内にWNの曲に聞き入ってしまう。まぁ、名曲が多いので仕方ないことですね、、、

 今の段階では私が編み出した3つの仮説を発表する予定ですが、荒唐無稽なことも書かれているので多くの批判を受けるかもしれません。しかし、批判する人々はWNへ強い愛を持っている方だと思うので、私は批判されても良いと思っています。

 未だにNに関する情報はありません。もしかしたら、そういうことなのかもしれませんね。

 あまりここには書きたくありませんが、NとG3はそういう道を選んだのかもしれません。

 まるでバイトが嫌になってバックれる大学生のように、二人は表舞台から忽然と消えました。様々な憶測が生まれ、私も毎日心配で寝ることができていません。はい。

 最悪な結末が待っているかもしれませんが、それでも私はWNを応援して行こうと思います!

 それじゃ!










(以下はハヤオ関連ですので、読む必要はないです。)


 『S.N.A.F.U.』の第6話(前編)を公開しましたが、皆さんの期待通り、酷い内容でしたね。

 後編の公開は絶対に止めた方が良いと思うんですよ。

 ちなみに予告を無視して18日に公開してしまい、すみませんでした。記事の設定を間違えていました。

 ハヤオから第7話まで読ませてもらいましたが、「酷いな、これ」と口から溢れるほどの出来でした。ゆえに「んじゃ、ちょっと書き直すわ。ついでに8話目に大幅な修正を加えるさ」とハヤオはほざいていました。

 しかし!私とWNファンはハヤオのオ◯ニーでしかない物語を、この神聖なブログに載せることに反対しています。でも、ブログで後編の公開日を出した以上、約束を守るしかないのです。

 第7話から後のことは知りません。というより、あまり話していません。当初の予定では来月下旬公開でしたけどね、、、

 それではまたお会いしましょう?
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S.N.A.F.U. (6) 前編 [S.N.A.F.U.]

 「ダメです。」

 何かをねだる度に草加亮の母親はそう言って息子を黙らせた。

 少年にとって親は絶対的な存在であった。特に母親の影響は大きく、草加亮にとって彼女の言葉には決して逆らうことができなかった。

 小さい頃からテレビ番組の視聴は「暴力的になる」という理由で禁止され、同じ年の子供の間で流行っていたアニメ番組の話しに付いて行けず、同級生から奇異の目で見られることがあった。また、友人たちが新しいゲーム機で遊び始め、亮も母親にゲーム機が欲しいと頼んだが、彼の両親は「ゲームには不適切な表現が多い」と言って拒否した。

 不満はあったが、絶対的な存在である親に逆らおうと考えたことは一切なかった。親への愛もあったが、それ以上に嫌われたくないという気持ちが大きかった。多くの同級生と違う家庭環境だったので、友達の数も減り、気付けば学校で話す相手はいなくなっていた。同級生に話しかけようにも、彼の同級生たちは草加亮とその家族は変わっていると思われており、距離を開けるようになった。ゆえに少年であった草加亮は両親だけには嫌われたくないと思うようになり、両親を喜ばせようと努力した。

 中学生になってもこの状況は変わらず、高校に入学すると両親が離婚して草加亮は母親と共に家を出て小さなアパートで暮らすようになった。父親に捨てられたと思った草加亮はショックを受け、母親には絶対に嫌われないようにと細心の注意を払って接した。

 母親との暮らしは楽ではなかった。経済的に生活が苦しかったので、草加亮はアルバイトすることを母親に告げた。喜ばれると思ったが、母親は「余計な心配はしなくてもいい」と言って息子を突き放した。母親の言うことは絶対であったが、草加亮は内緒でアルバイトをして母親の財布に自分の給与の半分を入れていた。残りは大学進学のために貯金し、いずれは母親に負担を与えずに公立の大学へ行こうと考えた。

 家計を助けることはできたが、学力は低下した。それまでは十分に給付型の奨学金を受ける資格を持っていたが、学業とアルバイトの両立ができなかった草加亮の学力は下がり、貸与型の奨学金を応募するしかなかった。そのことを母親に告げると、彼女は顔を真っ赤にして息子の顔を何度も平手で打ち、手が痛くなると床に崩れ落ちて大きな声を上げて泣き始めた。

 草加亮にとって両頬に残る鈍い痛みよりも、泣き崩れる母親を見下ろす方が苦痛であった。

 「ごめんなさい、お母さん…」












『S.N.A.F.U.』








 CU。

 それは壁に大きく血で書かれていた。科学捜査係が忙しなく背後を歩き回る中、警視庁捜査第一課殺人犯捜査第4係の佐々木直哉は壁に書かれた文字を見つめ、その意味を考えていた。

 現場は東京都内にあるビジネスホテルの一室であり、その部屋に宿泊していた男性の名前は『久野雅人』であった。この部屋で見つかった男性の遺体の口には靴下が押し込められ、両手足はビニールの紐で縛られてベッドの上に寝かされていた。顔は赤く腫れ上がり、所々皮膚の割れた箇所があった。衣服は身に着けておらず、体中に真新しい複数の痣を確認することができた。また、彼の腹部には大きく十字に切り裂かれた傷跡があり、傷口はホッチキスの針で荒く閉じられていた。

 男性の身元は、現場に残されていた自動車免許証からこの部屋に滞在している久野雅人だと推定された。部屋に荒らされた形跡はなく、血痕はベッドとバスルームにしかなかったので、バスルームで殺害された可能性が高いと考えられた。

 この男性客を対応したフロントの女性スタッフによると、久野雅人に変わった様子は見られず、男性が部屋に入った後も何の問い合わせもなく、来客もなかったと述べていた。

 「暴力団絡みか?」同僚の刑事が佐々木の隣に並んだ。

 「分からん。」壁に書かれた文字からベッドの遺体に視線を移して佐々木は言った。「暴力団にしては派手な気もする。」

 「見せしめに殺したのかもしれない。」佐々木の横に並ぶ狩野俊雄も遺体を見た。

 「そうかもしれないが…」

 遺体の腹部にある傷跡を見つめていると佐々木は異変に気づいた。最初は気のせいだと思ったが、それは再び赤く腫れ上がった傷跡の近くで動いた。目を凝らし、ベッドに横たわる遺体に近いづいて動く何かを確認した。その直後、部屋にいた捜査員全員は死体の中に隠されていた爆弾の衝撃で吹き飛ばされた。
 


***



 クリアフォルダを片手に井上大輔は病院の廊下を歩いていた。

 廊下には早足でヒールの音を響かせながら数メートル前方を歩くスーツ姿の女性、井上の方に向かって歩いてくる男性看護師に付き添われた高齢の男性、そして、松葉杖をついて歩く9歳くらいの少年がいた。少年は疲れたのか一度立ち止まり、その時に井上と目が合った。

 紺色の襟付き半袖シャツに色褪せたジーンズ姿の井上は少年に笑顔を向けた。

 「頑張れ!綺麗な看護師さんたちのいるトコまでもう少しだぞ。」右拳を一休みしている少年に見せて井上がイタズラな笑みを浮かべた。

少年は頬を赤く染め、再び松葉杖をついて歩き始めた。

 一生懸命に前へ進む小さな背中をしばらく見つめた後、井上は前を見て歩き出そうとした。すると、見慣れた顔の女性看護師を見つけた。彼はこみ上げてくる笑みを抑え、口元をヒクヒクと動かしながら彼女に近づいた。

 井上に気がつくと女性看護師は口元を緩め、それを確認すると捜査官は我慢していた感情を解放した。

 「マルちゃんのダイエットは継続中ですか?」女性看護師が最初に口を開いた。

 「食事制限はしているんですけどね、リンくんのおウチに行くと美味しい物が食べれるようでね…」

 「私のせい?」

 「いや、ぽっちゃりになったのはオレのせいかな?」

 二人は共に微笑んだ。この女性看護師は、井上の飼い猫である猫座衛門と仲の良い猫の飼い主であり、猫たちの交流が二人を結びつけた。名前は岩田麻美といい、偶然にも彼女は野間秀俊の交戦後に井上が搬送された病院に勤務していた。だが、彼女は井上の身に起こった詳細を知らなかった。井上も詳しくは話さず、帰宅中に事故に巻き込まれて腕と脚をケガしたとしか言っていない。それに彼は彼女に「警察官だけど、やってるのは書類整理」と嘘をついている。

 「岩田さん!」井上の背後から声が聞こえてきた。振り返ると、別の女性看護師がいた。

 「ゴメン。仕事が終わったら連絡するね。」岩田は右手を小さく振って井上の横を通り過ぎた。

 「オッケー」捜査官も手を振り返し、彼女が同僚と合流するのを見ると下の階にある会計へと歩を進めた。

 井上はメインエントランスの自動ドアと総合窓口、その近くに並ぶソファーを見下ろせる道を歩いていた。ふと自動ドアへ視線を向けた時、彼は黒い服を着た4人組の男が二列に並んで自動ドアを抜けるのを見た。男たちは二手に分かれ、1組は会計カウンターへ、そして、もう1組は井上の目指しているエスカレータへ向かった。

 歩調を緩めずに井上は男たちの動きを注視した。会計カウンターへ向かった二人組の姿は見えなくなったが、エスカレーターに向かう二人組の姿は確認できた。男たちは服と同じ色のメッセンジャーバッグを持っており、エスカレーターに乗ると鞄の中に右手を入れた。その直後、間断のない轟音が井上の真下から聞こえ、その音は壁と天井に反響してその場に鳴り響いた。

 その音が銃声だと気づくと捜査官は反射的にしゃがみ込み、素早く右手を腰へ伸ばした。しかし、彼の手が求めていた物を掴むことはなかった。

 〝そうだ…休暇だから銃なんて持ってねぇ!〟

 当初、銃声は井上の真下から聞こえてくるだけであったが、エスカレーターを使って2階に上がってきた別の二人組も発砲を始め、けたたましい銃声がフロア全体に響いた。新たな銃声と共に耳朶を震わせるような悲鳴と怒号が井上の耳に飛び込んできた。彼は発砲している男たちの位置を確認するために頭を上げ、その際に短機関銃を発砲しながら歩いている男と目が合った。

 〝ヤッベ!〟

 井上と目の合った男は短機関銃の銃口を捜査官に向け、複数の銃弾が井上の頭上をかすめて壁に命中した。

 心拍数が急激に上昇したが、井上の判断能力は鈍っていなかった。彼は敢えて姿勢を低くせず、相手の注意を引くために来た道を走って引き返し始めた。案の定、井上に狙いをつけていた男は彼に向けて発砲し、その隣にいた彼の仲間も走って逃げる捜査官を見つけると井上に向けて銃撃を加えた。

 銃弾は井上の後を追うように壁やガラス張りの柵に命中し、逃げる相手を仕留められない二人の男は一度発砲を止めて再装填をしながら捜査官の後を追った。

 必死に逃げている井上は曲がり角に直面すると、右足から滑り込んで壁の陰に飛び込んだ。急いで壁に背をついて立ち上がろうとした時、隣から小さな悲鳴が聞こえて捜査官は素早くそちらへ顔を向けた。そこには4歳くらいに見える孫娘を抱えて座り込んでいる高齢の女性がいた。

 「大丈夫ですよ」額に薄らと汗を浮かべる井上が怯える二人に笑顔を向けた。ふと彼の視線の端に高齢の女性が使っていたと思われる杖が目に入った。「お借りしてもいいですか?」杖を指差して井上が尋ねた。

 高齢の女性は小さく頷き、井上は「ありがとうございます」と言って杖を取ると立ち上がった。壁の角に立った井上は顔を半分出して廊下の様子を窺い、駆けてくる二人の男を確認した。先頭に井上と目の合った男、その後を少し遅れてもう一人の男がいる。

 〝やるしかないな…〟高齢の女性と小さな子供のことを考えると、井上はここで二人の男と対峙するかないと考えた。彼はTの字になっている杖の持ち手を右手で掴み、左手は杖の先端から少し上の部分を掴んだ。

 床を通じて男たちが近づいてくるのを井上は足に感じていた。そして、接近してくる相手の影を曲がり角から確認するや否や、彼は上半身を出して杖を突き出した。

 腹部に向けて突き出された杖であったが、それは先頭を走っていた男の股間に命中し、攻撃を受けた男は目を見開くと同時に口を大きく開けて声にならない悲鳴を上げた。形容し難い痛みに男は両膝を内側に向けて前屈みになった。

 井上は素早く男の右横を通り抜け、少し遅れて走っていた男に近づいた。

 捜査官の姿に気付くと、男は短機関銃の銃口を向けて引き金を絞った。銃弾が発射される直前に井上は相手の短機関銃を左手で掴んで押し退け、その際に短機関銃から銃弾が発射されて捜査官の手の中で跳ね上がった。銃弾は両手で股間を抑えてしゃがみ込んでいる男の頭上を通過し、廊下の突き当たりにある壁に命中した。

 捜査官は銃弾が発射されても短機関銃から手を離さず、右掌底を男の鼻頭に叩き込んだ。相手が怯むや否や、彼は右手を一度引き、下から包み込むようにして短機関銃を掴むと銃を反時計回りに回転させた。

 今まで外を向いていた銃口が自分に向けられ、男の目は短機関銃に釘付けとなった。その隙を突いて井上は右膝蹴りを相手の股間に入れ、その勢いを利用して短機関銃をもぎ取った。

 素早く井上は短機関銃の遊底を引き、周囲に銃口を向けて安全確認を行った。遊底を引いた際、薬室にあった銃弾が排出され、大きな音を立てて床に落ちた。彼の足元には悶絶している二人の男がいるだけで、近くに脅威はなかった。しかし、捜査官は遠くから聞こえる銃声を聞いて危機感を抱いていた。

 〝4人じゃない…もっといるな…〟

 井上は黒い服を着た2人の男からチェコスロバキア製のVzに似た短機関銃とメッセンジャーバッグを取り上げ、男たちが着ていた長袖シャツを利用して両手を後ろで縛り上げた。鞄の中には短機関銃の予備弾倉の他に手榴弾2つが入っていた。

 〝なかなか良いモノ持ってんじゃん…〟

 捜査官は全ての武器を一つの鞄にまとめ、それを右肩からたすき掛けした。右手に短機関銃を持って、井上は曲がり角の先で孫娘を抱えている老婆に近づいた。

 彼の姿を見た老婆は悲鳴を上げて孫娘を抱きしめた。

 「大丈夫です」井上は銃を左脇に挟めて両手を上げた。「アイツらの仲間がまだいると思うので、お孫さんと隠れて下さい。」

 「ど、何処に?」目の前に立つ男性捜査官に疑いの目を向けながらも老婆が尋ねた。

 「この少し先に面談室があります。私がそこまで案内します。歩けますか?」井上が右手を老婆に差し伸べた。



***




 「一体どうなってんだ?」JCTC第2課の課長の風見卓が誰となく尋ねた。

 「それが分かれば苦労しませんよ…」第3課課長の袴田照雄が応えた。

 二人の前では部下たちが忙しなく電話で話し、パソコンの画面を睨みながら作業を行なっている。彼らはJCTC本部の5階にある大会議室で合同捜査本部を開き、2時間前に起きた事件の情報収集を行なっている。

 今から2時間前、JR京浜東北線の大森駅に近いビジネスホテルの6階で爆発が発生した。この爆発によって、部屋にいた6名の捜査員が死亡し、その内の2名は爆風で吹き飛ばされた後、部屋の窓を突き破って外に放り出された。6階から落ちた遺体は原形を留めていなかった。

 廊下でホテル従業員に聞き込みを行なっていた捜査員たちも、爆発の衝撃を感じており、ドアの近くにいた捜査員たちは爆風を浴びて壁に叩きつけられていた。

 その報せを受けるとJCTCは素早く情報収集を開始した。そして、錯綜する情報から手がかりを掴もうとしていた最中、品川区、港区、目黒区にある3つの病院で銃撃事件が発生した。

 「JCTCはこんな時のために作られたのです。」第1課課長の一文字武志が口を開いた。彼は風見と袴田の間に座っている。「しっかりと役割を果たそうではありませんか…」

  彼ら3人から少し離れた場所で半田弘毅は部下の井上へ連絡を試みていたが、部下が電話に出ることはなかった。

 「出ないんですか?」半田の隣にいた浦木淳が尋ねた。

 「あぁ…」井上が電話に出ないことに苛立ちながら半田が答え、彼は再び井上の番号にかけた。

 「班長!」半田の前にある机で作業している分析官の増井仁美が大会議室を飛び回っている大声に掻き消されないように叫んだ。

 「どうした?」電話を一度切り上げると半田は片手を机について、分析官のノートパソコンの画面を覗き込んだ。

 「井上さんから電話です。班長の電話に転送しましょうか?」

 「頼む。」

 上司の返事を聞くや否や増井は井上からの電話を半田のスマートフォンに転送した。

 「井上、すぐ本部に来い!」半田が開口一番言った。

 「行けたら、行きたいんですけど…」受信口から井上の抑えた声が聞こえてきた。

 「ふざけてる暇がない。すぐに来い!」

 「班長、行きたいんですけど…今いる病院が襲撃されてまして…」

 半田は虚を突かれて言葉を失った。この通話を聞いていた増井も驚いていた。

 「班長、聞こえてます?」

 井上の声を聞いて半田は我に返った。

 「増井、井上との電話を会議室のスピーカーに繋げ。」

 指示を受けると女性分析官は止まっていた手を素早く動かし、会議室のスピーカーとの接続を行った。

 「井上、状況を教えてくれ。」

 「黒い服を着た4人組の男が病院の正面玄関が侵入し、その後1階と2階へ分かれて短機関銃の発砲を始めました。しかし、銃声の数からして、裏口からも侵入しているかもしれません。」

 井上の声が会議室に響くと作業していた捜査員たちは手を止め、スピーカーから聞こえてくる声に耳を傾けた。

 「民間人の安全を優先し、2階に進んできた二人と交戦し、拘束しました。装備は短機関銃と手榴弾2つです。」

 「拘束した男たちの顔写真を撮って、こっちに送ってくれ。」第2課第4班の班長である後藤田文博がマイクを使って井上に言った。

 「現在移動中なので無理です。」

 「無事なのか?」半田は部下の身を案じた。

 「俺は大丈夫です。でも、病院にはまだ多くの人が-」

 「それよりも情報収集だ。」後藤田が井上を遮った。「ソイツらの身元を確認する必要がある。」

 「ちょっと電波が悪いみたいなので、かけ直します。」

 その後、スピーカーから微かに聞こえていた雑音がなくなり、それは通話が終了したことを告げていた。

 「もう一度、電話をかけろ!」後藤田が増井に向かって怒鳴った。

 「分かりました。」女性分析官は後藤田の声に怯えたが、すぐにリダイヤルした。

 呼び出し音が数回鳴ったが、井上が電話に出ることはなかった。

 「クソッ!」後藤田が悪態ついた。「半田さん、彼はあなたの部下ですよね?一体どうなってるんですか?」

 「何か事情があるのかもしれません。引き続き井上との接触を試みます。」そう言うと半田は後ろにいた浦木と新川真衣の方へ振り返った。「装備を整えろ。その間に井上のいる病院を特定する。おそらく徳英病院だと思うが、念のために調べる。」半田は井上が負傷した後に通い続けている病院を知っていた。

 「了解。」浦木と新川は急いで大会議室を後にした。

 「増井と柄沢は井上のいる病院を特定し、現場近くにいる捜査員に井上からの情報を提供してくれ。」

 「半田くん…」大会議室のスクリーンにいる第2課の課長、袴田が部下に近づいた。「井上という男は大丈夫なのかね?」

 「彼は優秀な捜査官です。おそらく連絡できない状況にあるのでしょう。またすぐに連絡が来ると思います。」

 「ならいいが…」半田の応えを聞いても袴田は納得できなかったが、今は信じることしかできないと思い、自分のいた席へ戻った。



***



 ルームミラーで近づいてくる坊主頭の男を確認すると、眉毛の太い男は車のエンジンをかけた。再びルームミラーを見た時、坊主頭の男が助手席のドアを開けて乗り込んできた。

 「あまり変わらないな…」眉毛の太い男が助手席に座る男の横顔を見て言った。

 「いいから出せ。」坊主頭の男が運転席にいる男を睨みつけた。

 それを聞いた男は呆れながらギアをDに入れて車を走らせた。

 「尾行は?」運転席にいる眉毛の太い男が尋ねた。

 「ある程度は巻いた。今朝の件で俺への警戒は薄くなってるようだ。」

 助手席に座る坊主頭の男の名は金村浩一と言い、2ヶ月前に起きた新幹線爆破事件の主犯であった津上翔一を始末するように命じられていた。しかし、津上とその交際相手を追いつめたところで、浦木と交戦して逮捕された。

 逮捕後、JCTCの取り調べを受け、その後に久野雅人の部下二人を殺害した罪で起訴されるところであった。だが、検察は金村の殺意を証明する証拠が無いと判断した。検察によると、金村は初犯であるが、殺害された二人には傷害と強盗の前科があったので、金村の正当防衛の可能性を示唆した。また、津上とその交際相手は被害男性たちと関わりのある左翼組織として繋がりがあるため、検察は二人の証言に信憑性がないとした。これによって金村は不起訴となった。

 いくら不起訴になっても警視庁公安部とJCTCは彼の監視を続け、金村もそれには気づいていた。ゆえに仲間と接触することを避け、時が来るのを辛抱強く待ち続けた。全ては尊敬する男のため、そして、自分を捕らえた男へ復讐するためであった。

 金村は今朝の爆破事件をニュースで見て今日がその時だと思い、着替えを済ませると緊急合流先に指定されていた場所へ向かった。期待していた通り、仲間はその場所で待っていた。

 「スマホとか捨てたか?」眉毛の太い男が再び尋ねた。

 「途中で捨てた。お前は?」

 「もちろん捨てたさ。連絡用をこれから取りに行く。だから、この車は途中で捨てる。」

 「分かった…」金村は外の景色を見た。通りを歩く人々を見て彼は失望していた。

 〝今も銃撃事件が起きているのに…コイツらは何も起きてないかのように、いつも通りの生活を送っている。〟

 「辛気臭い顔するな。草加さんは今日のために準備した。今日は始まりの日だ。今日を境にこの国は大きく変わる…」



***



 その音を耳にした時、岩田麻美は同僚の女性看護師と歩いていた。

 断続的な轟音と共に悲鳴と怒号が遠くから聞こえ、通路を歩く人々と受診を待つ人々が動きを止めて音の方へ顔を向けた。

 甲高い悲鳴と怒鳴り声、そして、それを掻き消す花火のような破裂音は次第に大きくなった。今まで遠くから聞こえてきた音が近づいてくると、人々は不安を抱き、一部の人々は立ち上がって様子を見に行こうとした。その時、鬼気迫る表情を浮かべて駆けてくる数人の男女を目撃し、彼らは「逃げろー!」と叫んだ。

 状況を理解できない人々は走り去る人々の姿を見守ることしかできず、それは岩田とその同僚も同じであった。

 「どうしたんでしょうか?」岩田が隣にいる同僚に尋ねる。

 「分からないけど、患者さんたちを避難させましょう。」

 轟音は近くまで迫っていた。看護師たちは廊下にいる人々に避難するように呼びかけ、人々は渋々立ち上がり、断続的に聞こえてくる音の方へ何度も顔を向けた。

 ロビーから駆けて来ている人々は、ゆっくりと避難を始めた人たちを押し除けるように進んだ。

 「何が起きてんだよ?」受診を待っていた一人の男性が興味本位で音のする方へ歩き出した。

 彼が曲がり角へ差し掛かった時、短機関銃を持つ2人の男に遭遇した。男性は急いで引き返そうとしたが、短機関銃を持つ男たちは男性の背中に銃弾を浴びせた。複数の銃弾を背中に受けた男性は、口から血を吐きながら勢い良く床に叩きつけられた。

 短機関銃を持つ黒い服を着た二人の男が避難する人々を確認すると同時に、看護師に誘導されている人々も彼らの存在に気づいた。一瞬にして混乱が生まれ、人々は我先にと目の前を歩く人々を押し除けて走り出そうとした。

 短機関銃を持つ二人は互いに顔を見合わせると、鞄から手榴弾を取り出してそれを混乱に陥っている人々に向けて放り投げた。深緑色の球体は小さな弧を描いて宙を舞い、避難している人々の群れの最後尾に落ちた。

 カンッという音と共に手榴弾が床に落ちると、それは爆音を生むと同時に破片を周囲に拡散させた。破片は避難していた人々の頭、脇腹、背中、脚に突き刺さり、小さな破片を浴びることはなくても、多くの人々は爆風を浴びて互いに覆いかぶさるように崩れ落ちた。

 爆風によって岩田麻美も床に押し倒され、その衝撃によって耳鳴りがして意識が朦朧とした。顔を上げると短機関銃を持つ二人組の男が発砲しながら近づいてくるのが見えた。

 〝逃げなきゃ!〟頭の中でそう思っていても体が動かない。

 短機関銃から発射される複数の弾丸が、岩田から2メートルほど先に倒れている人々の背中と胸に命中して血飛沫と肉片が飛び散った。

 〝逃げなきゃ!〟

 起き上がろうとした時、真後ろから耳朶を震わせる女性の悲鳴が聞こえ、慌てて振り返った。そこには立ち上がって逃げようとしていた中年女性がおり、彼女は背中に複数の銃弾を浴びて糸の切れた操り人形のように倒れた。

 女性が銃弾を受けた際に岩田は女性の血を浴び、着ていた白い服が赤黒く染まった。彼女の心臓は今までにないほど高鳴り、喉が乾き、目から涙がこぼれ、そして、吐き気を覚えた。

 〝殺される…〟死への恐怖が彼女の思考を支配し、岩田は身を丸めることしかできなかった。

 短機関銃を持った二人の男は岩田のいる場所へ銃撃を加える前に、短機関銃から空になった弾倉を抜いて新しい弾倉を手に取った。

 右にいた男が再装填を終えた時、右膝裏に衝撃を受けて思わず片膝を強く床に打ち付けしまった。激痛に顔を歪めるも男は振り返って後方を確認しようした。その時、真後ろから花の破裂するような音が消え、隣にいた仲間が呻き声を上げて床に崩れ落ちた。驚いた男は振り返る前に仲間へ視線を向け、その際に左側頭部を殴られた。

 殴られた衝撃が強かったために男の頭は右へ動き、その隙を狙って井上は右斜め上から短機関銃を振り下ろして銃底で男の首筋を殴った。殴られた男は頭をガクンと落として床に落ちた。

 次に井上は流れるような動きで短機関銃に装填されている弾倉を左手で掴むと、撃たれた脚を抑えて倒れているもう一人へ銃口を向けた。男は歯を食いしばって呻いており、持っていた短機関銃から手は離れていた。だが、安全のため捜査官は男の額を蹴り飛ばし、蹴りを受けた男の意識は飛んで白目を向いて動かなくなった。

 井上は素早く銃口を周囲に向けて安全を確認すると、制圧した男たちから武器を取り上げて鞄に押し込んだ。彼は男たちの着ていた服を利用して相手の手を縛り、廊下の隅に移動させた。その後、周囲を見渡して捜査官は下唇を噛んだ。

 〝もっとペースを上げないと…〟遠くから聞こえてくる銃声を耳にして井上は思った。

 廊下には銃撃と手榴弾で負傷した人の呻き声と子供たちの泣き声が響き、捜査官は負傷している人々の様子を見ようと倒れている数人の男女と座り込んでいる人々の方へ急いだ。その時、彼は座り込んでいる人の中に岩田麻美を見つけ、我を忘れて彼女に近づいた。彼が顔と胸に血飛沫を浴びている女性看護師に近づくと、周りにいた人々は短機関銃を持つ捜査官を見て体を強張らせた。

 「大丈夫?」短機関銃を右手に持ったまま、井上は岩田の前で片膝をついた。

 彼の姿を見ると女性看護師は顔をくしゃくしゃにして捜査官に抱き付き、井上は戸惑いながらも左手を彼女の背中に回した。

 「まだ銃声が聞こえる。ここから逃げなきゃダメだ。」井上が自分の胸に顔を押し付けて泣いている岩田に言った。

 「どうなってるんだ?」井上の後ろにいた高齢の男性が尋ねた。

 「状況はまだ分かりません。」男性の方を見て捜査官は応えた。「まだ銃を持った男がいる可能性がありますので、気をつけて避難して下さい。先を急ぐので−」そう言って井上は立ち上がろうとした。

 「何処に行くの!」目を真っ赤にして泣いている岩田が顔を上げて声を大にした。「殺されちゃうよ!」

 井上は彼女を落ち着かせようと笑顔を作った。「大丈夫だよ。」

 「何処に避難すればいいの?」中年の女性が尋ねてきた。

 「何処かの部屋に鍵をかけて閉じ籠ることもできますが…」捜査官は廊下にいる人の数を確認した。出血が酷く、移動することが困難な人が4人ほどいた。

 〝12人か…〟

 「1階の裏口に守衛の部屋があったよね?監視カメラの映像を確認するような部屋。」井上が鼻水をすすっている岩田に尋ねた。

 女性看護師は涙を拭って小さく頷いた。

 「移動できる方を優先して裏口まで移動します。」井上は立ち上がり、改めて廊下にいる人々を確認した。「残りの方は応急手当をし、後ほど助けに来ます。」

 「全員で逃げるべきだろ!」脚から流れる血を止めようとしている若い男性の隣にいた高齢の男性が怒鳴った。「重傷者を見捨てるのか!?」

 「下手に動かすと、移動中に傷が広がることもあるので−」

 「そんなのやってみないと分からないだろうがッ!」井上が説明を加えようとしたが、高齢の男性は彼を遮った。

 「早く逃げないと連中が来るよッ!」中年の女性が井上に制圧された二人の男を指差して叫んだ。

 「まずは避難できる方を優先します。」肩に手榴弾の破片を受けていた岩田の同僚が額に大粒の汗を浮かべながら言った。「その後、私たちが重傷者の方々の手当てを行います。」

 井上は岩田の同僚である女性看護師を見て小さく頷いた。

 「すぐに移動します。皆さん、準備をして下さい。」そう言うと井上は短機関銃の弾倉を入れ替えた。弾倉に十分銃弾が残っていたが、遭遇戦に備えて新しい弾倉に替えた。

 裏口まで人々を避難させることも最優先課題であるが、井上は警備室にある監視カメラの映像を見て短機関銃を発砲している男たちの正確な位置を掴みたいと思っていた。

 〝そろそろSATの展開もできてると思うんだよなぁ〜。班長にお願いして突入してもらうか?〟



***



 車で移動していた井上と新川であったが、病院の5キロメートル手前から交通規制が入っており、二人を乗せた車は渋滞に巻き込まれて身動きができない状況にあった。この道路は高層ビルに挟まれており、常に車と人通りの多い場所であった。

 渋滞は4キロメートル以上続いており、車に乗る人々は苛々しながらスマートフォンで通話したり、携帯端末の画面を睨んだりしていた。クラクションを鳴らす者もいたが、その数は少なく、多くの人々は前の車が進むのを今かいまかと待っている。

 歩道も多くの人で埋め尽くされ、その中にはスマートフォンを片手に病院で起こっている事件の様子を見に行こうとする野次馬もいて、先を急いでいる通行人の邪魔をしていた。

 「車を置いて徒歩で移動しましょうか?」浦木がシートベルトを外して助手席にいる新川に尋ねた。「事件が解決するまで、この渋滞は解消されません。」

 「そうですね…」新川もシートベルトを外し、浦木が外に出ると急いで男性捜査官の後を追った。

 二人の捜査官は車の間を縫うように進み、警察が設けた規制線まで残り数キロメートルと迫った。新川は前を歩く半袖ワイシャツ姿の浦木の背中を追い、先頭を走る浦木は周囲に視線を配りながら前進を続けた。

 その音は規制線まで残り2キロと迫った時に聞こえてきた。

 浦木と新川は音源からおよそ100メートル離れていたが、その音に耳にして二人は振り返った。彼らが音の正体を掴む前に悲鳴が通りに響き、二人の捜査官が視線を走らせると、歩道で倒れている20人ほどの男女を発見した。無傷の者もいたが、何かには顔、腕、脚から大量の血を流している者もいた。

 〝爆弾?〟

 浦木がそう思った時、二度目の破裂音を耳にした。それは浦木の真横から聞こえ、彼は爆風を浴びて左にあった車に片手をついてバランスを取らなければならなかった。一方の新川は反応が遅れて、左腕を停車していた軽自動車の車体に打ち付けてしまった。

 〝なに?何が起きてるの?〟新川は恐怖して軽自動車に背中をつけ、落ち着きなく顔を左右に動かした。

 浦木は右手を腰へ伸ばし、インサイドパンツホルスターに収められているグロック19の銃把を掴んで視線を素早く通りに走らせた。特に警戒したのは最初と二度目の爆発が起きた地点の中間であった。しかし、パニックを起こして逃げ惑う人が多く、不審な人物を特定することができなかった。

 「浦木さん…」新川がゆっくりと男性捜査官に近づいた。「襲撃されているのは病院だけじゃな−」

 二人は固い何かが地面に落ちる音を耳にした。素早く浦木が音のした右へ視線を向け、5メートルほど先で転がっている深緑色の球体を確認した。

 〝クソッ!〟

 浦木は急いで逃げようとしたが、新川の反応が遅れていたので、咄嗟に彼女をミニバンと軽自動車の間に押し込んだ。その直後、彼は爆風を浴びて地面に叩きつけられた。頭部は打たなかったものの、強打した右腕と背中に鈍い痛みを感じた。

 爆風と破片は近くに停車していた車の窓と車体を傷つけ、一部の破片は通りに面している建物の窓ガラスに小さな穴と蜘蛛の巣状の傷を生んだ。

 「大丈夫ですか?」爆風から逃れていた新川は急いで倒れている浦木に駆け寄った。

 「なんとか…」男性捜査官は素早く起き上がって拳銃をホルスターから抜いた。

 〝何処だ?〟浦木は右手に持った銃を腰元に置き、再び歩道へ視線を走らせる。

 「班長に連絡します!」スマートフォンを取り出して新川が言った。

 「分かり−」口を開いた浦木はもう少しでその人物を見過ごすところであった。

 上下ともに黒い服を着た男は逃げ惑う人々の中に紛れていた。この男はもう一つの手榴弾を投げようと、安全ピンを抜いて投げる場所を確認した。そして、浦木と新川の姿を確認すると二人のいる場所へ投げようと振り返って右腕を大きく振り上げた。

 浦木はその瞬間を目撃した。反射的に銃を構えたが、多くの人々がいるため発砲することはできない。そうしている間に男は手榴弾を二人の捜査官の方へ投げた。






* * *



 大学に入学すると3人の友人ができた。

 彼らは同じ学部で、受講している講義がほとんど同じであった。新しい友人は草加亮に対して友好的に接していたが、両親の影響で人付き合いが苦手な彼は友人たちとある程度の距離を取っていた。草加にとって、彼らは同じ大学に通う学生であり、重要な存在ではなかった。

 そのような草加の姿勢を見ても、3人は今までの同級生たちと違って彼から離れようとはしなかった。むしろ、もっと草加と仲良くなって大学生活を豊かにしようと考えていた。

 友人たちの気も知らない草加は、朝は勉強して夜はアルバイトに勤しんだ。すべては母親に嫌われないため、そして、母親の負担を少しでも減らすためであった。大学での勉強とアルバイトに集中する彼は疲れていたが、それでも母親に見捨てられるかもしれない恐怖を思い出すと目の前に課題に臨んだ。
 ある日、社会学という講義で貧困に関する本を読んでくるように教授が学生たちに伝えた。多くの生徒は参考文献を挙げられても、すべては読まずに最初の数ページを読むだけであった。彼らとは対照的に草加亮は図書館へ行って参考文献を熟読した。

 今までは要点を記憶しようと思って読むことが多かったが、彼は社会学で挙げられた『日本の貧困』という新書に出てくる人物たちと自分の姿を重ねて読んだ。本の中には自分と同じように片親と過ごし、貸与式の奨学金を受けて大学に進学したものの、それを返済できる見込みがない元大学生がいた。その他にも自分の好きな絵の勉強をしたくても、経済的余裕がないために進学を諦めて就職した女性のことも書かれており、その女性は夢を諦めてもまだ苦しい生活を強いられていた。

 〝なんてことだ…〟

 草加は衝撃を受けると同時に涙した。この世の中には自分と同じ境遇、またはそれよりも悪い状況の人々が多くいることを知って悲しくなり、そして、自分一人だけが同じ問題で苦しんでいる訳ではないことを知ると少し気が楽になった。

 〝誰かがこの問題を解決しないといけない。〟

 今まで大学の講義のためだけに使っていた勉強の時間を、草加亮は日本における貧困問題を調べる時間に使うようにした。そして、その社会問題の勉強に使う時間は日に日に講義の勉強時間を侵食し、彼は図書館にある日本の貧困に関する本をすべて読む勢いであった。

 友人たちはオンラインゲームの話題で盛り上がっていたが、草加はもっぱら日本の貧困問題について議論しようと誘った。だが、友人たちは草加の話しを聞くフリをしてスマートフォンのゲームに夢中になっていた。

 〝コイツらは問題の深刻さに気づいていない!〟

 友人だと思い始めていた3人の態度を見た草加は何度も日本における社会問題について語り合おうとした。それでも彼の友人たちは、「俺たちに言われてもどうしようもないじゃん」と言うだけであった。そこで草加は社会学を専攻している学生たちとなら議論できると思ったが、彼らは草加の友人たちと同じようなことを言って草加亮を嘲笑った。社会学の教授も、「深刻な社会問題ではあるけど、具体的な解決はまだないし、すぐに解決できる問題ではない」と言って彼を失望させた。

 〝誰も真剣に貧困について考えていない…多くの人が苦しんでいるというのに!〟

 腹の奥底から込み上げてくる怒りを感じながらも、草加は図書館で貧困問題を学んだ。そして、彼はある一つの結論に達した。
 



* * *



 情報が錯綜する中、大会議室にいる捜査員たちは現場から来る情報とSNSに溢れている情報を照らし合わせて確認を行っている。

 SNSの中には誤った情報も含まれていたが、その中には襲撃が始まる前に不審な人物を現場付近で目撃したとの情報や、病院付近の住民や現場付近で働いている人々が投稿する写真や動画があり、これらの投稿からある程度の情報を入手することができた。また、分析官たちは現場付近の監視カメラ映像や国内で活動しているテログループの声明が発表されていないかを確認し、病院を襲撃しているグループの特定を急いでいた。

 その最中、襲撃を受けている3つの病院に向かっていた捜査官たちが手榴弾で攻撃されているとの情報が飛び込んできた。

 「浦木と新川の状況は?」半田がノートパソコンの画面と向き合っている柄沢に尋ねた。

 「まだ連絡がつきません!」後ろにいる上司へ顔を向けず、大声を上げて男性分析官が応えた。彼は波のように押し寄せてくる情報を整理しようと必死であった。

 「井上は?」柄沢の隣に座る女性分析官へ視線を移動させて半田が尋ねた。

 「まだ連絡は来ていません。」増井もノートパソコンの画面から視線を外すことはなかった。「先ほど、インターネット掲示板に投稿されていた声明文らしきモノを書いた人物の住所が分かりました。捜査官を送りましょうか?」増井は捜査員へすぐメッセージを送れるよう、ノートパソコンの画面の隅にチャットボックスを表示させた。

 「頼む。」

 上司の言葉を聞くと素早く増井はキーボードを打ち、目的地の近くにいる捜査員にメッセージを送信した。

 半田のスマートフォンが振動し、彼は右手に持っていた携帯電話の画面を確認すると素早く電話に出た。

 「井上か?」

 「はい…さっきはすみませんでした。」井上は開口一番謝った。

 「気にするな。それより状況は?」

 「先ほど再び2名と交戦し、無力化した後に12名の民間人と病院の裏口に向かって移動しています。SATの突入はないんですか?」

 「今回はJCTCで要請した部隊じゃないから、突入の決定権は警視庁にある。」半田は井上が無事であることを知って安堵していた。「病院内の安全は確保できたのか?」

 「いえ、まだ短機関銃を持った奴が少なくとも4人はいると思います。」

 「お前はまず12名の民間人と共に病院から逃げろ。」

 「まずは民間人を裏口から避難させますが、その後は引き続き救出活動を続けます。ですから、早くSATを突入させる準備をしてくれませんか?」

 「分かったから、お前も逃げろ。後は俺たちがなんとかする。」

 「お願いします。」

 電話が切れた。

 「半田さんッ!」

 背後から声が聞こえてきた。振り返ると同じ3課4班の班長である園田真理子がいた。

 「井上からですか?」

 半田は彼女の問いにすぐ答えなかった。

 「さっきの電話は井上からですね?」

 「そうですが、何か−」

 「彼は病院内にいる貴重な情報源です。何故、私たちにも聞こえるように話していただけなかったのでしょう?」園田は半田の言葉を遮った。

 「先ほどのように、全員に聞こえるよう通話すれば、井上は質問責めにあうでしょう。ストレス下に置かれている彼に、余計なストレスを与える必要はないでしょう。それに井上との通話を隠すつもりもないですし、この通話は既に録音されています。」

 「それでもリアルタイムで情報を共有する必要があるんです。今の状況を分かっていますか?」園田は半田の態度が気に食わなかった。

 「分かっています。報告がありますので、この話しは後でもいいでしょうか?」

 「状況が状況ですからね。後にしましょう…」そう言うと園田は自分の班員たちがいる場所へ戻った。

 半田は急いで課長の袴田がいる机へ走り、井上からの連絡を伝えた。

 「SATの突入は私たちで対応しよう。君たちは井上のサポートをし、民間人の保護に集中してくれ。」

 「分かりました。」

 袴田は走り去って行く半田の背中を見送ると、隣にいる第1課と2課の課長へ顔を向けた。

 「請け負ってしまったが、警視庁は突入に反対するでしょうな…」袴田が言った。

 「体面を気にして突入はしないでしょう。それに病院以外でもテロ事件が起こっている。おそらく皆さん、パニックでしょう。」第1課の課長である一文字が忙しなく働いている部下たちを見つめながら呟いた。

 「そうなると、テロリストが立て篭もって要求を出すまで待つしかないと…?」第2課の風見課長が誰となく尋ねた。

 「立て籠るのが目的に見えない。無差別に殺すのが目的だろう。それに病院付近で起きている手榴弾の攻撃は、病院にいる仲間を逃すための陽動かもしれない。」一文字が顎を摩った。

 「そうだとすれば、早くSATを突入させないといけませんね…」袴田は下唇を噛んだ。

 「今は病院に送ったこちらの捜査官たちに、陽動と考えられるテロリストの攻撃をできるだけ防いでもらうよう頑張ってもらいましょう。」一文字は左手首に着けている腕時計を見た。「そうすれば、SATは病院のテロリストに集中できるはずです…」



***



 手榴弾は地面に落ちると転がって白い乗用車の下に入った。その車に乗っていた運転手は二度目の爆発後、車を置いて逃げていた。

 白い乗用車が浦木と新川の位置から5メートルほど離れた場所で停車していたが、二人の捜査官は急いで近くにあったミニバンの陰に飛び込んで衝撃に備えた。

 深緑色の手榴弾は車の下で爆発したものの、白い乗用車の車体を数センチ持ち上げ、限定的ではあったものの爆風と破片を周囲に拡散させた。

 爆発音を耳にし、足に軽い爆風を感じた浦木は隠れていたミニバンから身を乗り出して先ほど見つけた男の姿を探し求めた。通りには逃げ惑う多くの人がおり、男性捜査官はミニバンから離れて視線を周囲に走らせた。

 「先ほど見つけた男を追います。」そう言って浦木は拳銃を胸の前で構えて走り出した。

 「はい!」新川もG19をホルスターから抜いて浦木の後を追った。

 車両の間を走って浦木と新川は左右の通りに視線を向け、手榴弾を投げた男の姿を探した。しかし、あまりにも人が多すぎて不審な人物を見つけることはほぼ不可能であった。

 〝さっきのアイツは何処に?〟

 「人が多すぎますッ!」後ろにいる新川が浦木に声をかけた。

 「もう一度攻撃する気であれば、必ず姿を見せるはずです。」

 「分かりました!」

 後ろを振り返る人々の顔を確認し、浦木は先ほど見た男かどうか見極めなければならなかった。それに混乱を作ることが目的であれば、さらなる攻撃を仕掛けてくる可能性が高いと推測した。だが、相手の攻撃を待つということは、さらなる犠牲者を生む、または彼と新川の命が危険に晒される可能性が高くなることも意味している。

〝仕方ない…〟浦木は胸の前で構えていた拳銃の銃口を地面に向け、二度引き金を絞った。G19が小さく男性捜査官の手の中で跳ね、2発の銃弾が地面に命中して小さな破片と埃が舞い上げた。

 銃声が通りに響くと複数の女性の悲鳴が上がり、逃げていた人々の中には振り返って状況を確認しようとする者もいた。その中には上下黒い服を着た男もおり、浦木は一瞬のことではあったが男の位置を確認した。

 「止まれッ!」銃口を男へ向けて浦木が大声を上げた。

 すると、黒い服を着た男は再び振り返って銃を構える男性捜査官を見つけた。男は素早く鞄に右手を入れて手榴弾を掴もうとしたが、そこにもう爆弾はなかった。

 〝クソッ!〟黒い服の男は前を走る人々を押し除けて浦木と新川から逃げようとした。

 浦木は再び銃を胸の前で構えて、逃げた男の後を追った。

 少し遅れていた新川も黒い服の男を追跡しようと先導する男性捜査官の後を必死に追いかけた。好意を寄せている男性捜査官の背中を追いながら走っていた時、彼女は左側の通りで素早く動く何かを視界の隅に捉えた。それは新川ではなく、浦木に接近していた。

 「浦木さんッ!」異常を知らせようと新川が叫んだ。

 彼女の声に反応して浦木が振り返った時、背中に衝撃が走り、右にあったSUVの車体に体を叩きつけられた。急いで後ろを向いたが、その直後に浦木は左頬と腹部を殴られた。



(続くのかな?)

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もう嫌だよぉ〜 [ハヤオ関連]

(すみませんが、ハヤオ関連の記事です。WNロスの真実は絶賛調査しながら書いていますので、もう少し待ってください!)

 待ってる人は皆無だと思いますが、『S.N.A.F.U.』の第6話ですね。これが来週3月20日(金曜日)と3月27日(金曜日)に分けて公開されることが決定してしまいました。

 つまり、その日に『WNロスの真実』は公開できないということです。申し訳ありません。

 今までと同じく退屈で、寝る前に読めば確実に寝落ちできます。しかし、用法・用量は正しく守って使ってください。

 ちなみに『S.N.A.F.U.』の第6話は前回(第5話)から2ヶ月後の話しになってます。

 ハヤオ曰く、「結末は主人公たちの夢オチ、または国家に逆らって終わる的なモノにしようと思ってます。そうした方がいいでしょ?」だそうです。

 いずれにせよ、『S.N.A.F.U.』の第6話の前編を来週3月20日(金曜日)、後編を3月27日(金曜日)に公開しますので、ブログの閲覧は控えてください。

 それじゃ!
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多謝 [その他]

 なんかブログを閉じるようなタイトルになってますが、まだまだWNブログは続きます!

 先週から『WNロスの真実』という記事を書き始め、多くの反響がありました。

 ありがとうございます。

 やはり世界的なスターなので賛否両論ありますが、多くの人に納得してもらえる内容の記事にしたいと思います。

 そのためには調査に時間をかけてしまうと思いますが、中途半端に投げ出すことはありませんのでご安心ください。

 現在の時点では3つほどの仮説というか考察しかありませんが、それを詳しく説明したいと思います!

 今週にもう一度、記事を上げれたらと思っているので、よかったら読んで感想を聞かせてください。また、オリジナルの仮説などがあったら、遠慮なくコメント欄に書いてください!

 それじゃ!










(以下はハヤオ関連ですので、読まなくてもOKだよ!)

 さて、私が『WNロスの真実』を書き始めたので、ハヤオの手伝いはもうできない、否、したくないです。

 しかしながら、『S.N.A.F.U.』の第6話は編集作業中でして、明日には終わる予定です。これがおそらく私が関わる最後の編集でしょう。ヤッタぜ!

 公開日についてですが、『WNロスの真実』の日と被ると困るので、いつにしようか考えてます。

 前後編に分ける話しもあり、月を跨ぐか、3月に全部公開するか…

 微妙なところ、ハヤオから「第7話も半分できてるのよ。編集作業、ヨロ」とあったので来週末(20日)と27日に公開して、第7話を4月に公開する?ということも話してます。

 ちなみに第7話は第6話よりも長いです。そして、第8話はもっと長い!というより、なんでバランスよく作れない?

 もう愚痴しかないですよ…

 詳細は今週の金曜日に発表するかもです。

 それじゃ!
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序文 [WNロスの真実(考察)]

序文

 WNと言えば、知らない人はいない世界的な有名アーティストです。

 いずれ『ボヘミアン・ラプソディー』や『ロケットマン [注:北の将軍様じゃないよ]』のような伝記映画『HOKUREN』、そして、数え切れないドキュメンタリー作品が作られるでしょう。

 WNは伝説的な音楽グループですが、今年の初めから彼らの公式SNSアカウントが停止、または削除されました。これは世界を震撼させ、多くの国々がトップニュースとして報道したため、読者の皆さんも知っていると思います。

 同時期にSNS上では以下のような怪文書が出回り、その文章は翻訳されて世界中のWNファンが知ることになりました。問題の文章は以下の通りです。

 「WNの抹殺については、世界的な影響を前提としてプロセスを踏んだ状況であり、これは総理のご意向だと聞いている。」

 衝撃的な文章であるが、これはつまり日本国総理大臣が世界中で絶大な人気を誇るWNの抹殺を本気で考えているという証拠だと一部のファンは訴えています。以後、WNのアカウントに関する出来事は『WNロス』と呼ばれております。

 しかしながら、私は上記の怪文書が証拠になるとは思っていませんし、WNは既に日本という国が単独で張り得るような存在ではないのです。

 このような「政府によるWN暗殺計画」の他にも「死亡説」、「性転換説」、「激太り説」、「ふなっしー説」、「ウシくん説」、「Zozotown説」などの考察が多くのブログや動画サイトで公開されております。特に「ふなっしー説」は有力だと思っていますが、それでも私はこれらの考察を基に新たな仮説を作りました。

 荒唐無稽だと思われる仮説もありますが、この目的はWNロスという世界的なニュースの謎を紐解く手助けをしたいからです。しかしながら、WNのメインボーカルであるNと親しい人物によるツイートによって、「自分探しの旅」または「現実逃避」という説が最有力候補となっています。それでも多くのファンは他の、主に「ふなっしー説」が現実的だと主張して白熱した議論が展開されています。

 そこで私は『WNロス』という事件を振り返りながら、私の仮説と合わせて事件の真相を突き詰めていこうと思います。

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