第十回 [銀河極小戦争]

第 十 回









 外から聞こえてきた男女の争う声を聞いたナマズは、内職作業を中断して段ボール箱で作られた家の出入り口に近づいた。すると、エヌラと見知らぬ女が室内に入って来た。

 「あっ!」ナマズと目が合ったエヌラが声を上げた。「いや、これは―」彼が弁解しようと口を開くと、全身赤タイツ姿のナマズがエヌラの右頬を平手打ちした。

 「誰よ、この女!」ナマズが鋭い目をエヌラとミアツに向けた。

 「アンタこそ誰よ!」とミアツ。

 激しい睨み合いがナマズとミアツの間で続き、エヌラはその間に逃げようとしていた。しかし、二人に見つかって部屋の真ん中まで引っ張られた。

 「誤解なんだよ、ナマズ。この女は警備会社の客だった人で、警備中に事務所が襲われて逃げてきたんだ。」エヌラは今まで起きたことを話した。

 「嘘をつくなら、もっとマシな話しを作りな!」赤いタイツ姿の二十九才になる男が財布を取り出した。「しばらく実家の方に行かせてもらいます。」

 「待ってくれ!お前がいないと―」エヌラがナマズの後を追った。

 しかし、ナマズはすぐに戻ってきた。

 「やっぱり戻ってきて―」エヌラがナマズに抱き付こうとした。彼にとってナマズは金を稼いでくれる『便利な男』なので、そう簡単に手放したくはなかった。

 「囲まれてる…」近づいてくるエヌラを押し退けてナマズが言った。

 これを聞いてミアツは怯えた。

 「誰に?」とエヌラ。

 「分からないけど、結構立派な武器を持ってる。」ナマズが慎重に外の様子を見ながら小声で応えた。「どうやらエヌラの話しは本当みたいだね…」

 「俺が嘘つく訳じゃないじゃろ!」大きな声を上げた。

 「静かにしてよ!」ミアツがエヌラに言った。「見つかったらどうするの?」

 「全部お前のせいじゃろうが!」モラハラ野郎のエヌラが再び大声を上げた。

 二人を他所にナマズが部屋の隅に置かれていた服の山へ急ぎ、狂ったように洗われていない服を掻き分け始めた。これを見たエヌラとミアツは、全身赤タイツ姿の男の気が狂ったと思った。二人がナマズを宥めようと動いた時、ナマズが大きな革袋をエヌラに放り投げた。革の生地は色褪せて白くなっていたが、袋の口を縛る紐はナマズが取り替えたのか、新しい物であった。

 それを受け取ったエヌラは目を大きく開き、色褪せた革袋をじっと見つめた。

 「捨てるのが、もったいないと思ってね…」とナマズ。

 「なんなの?その汚いの?」革袋を指差してミアツが尋ねた。

 「汚物だ!」エヌラが袋をミアツに押しつけ、その場に座り込んだ。

 革袋は想像よりも重く、ミアツは袋を落しそうになった。恐る恐る革袋の中を見ると、そこには回転式弾倉の拳銃、上下に並んだ銃身の短い拳銃、数発の銃弾があった。彼女は拳銃を袋から取り出し、それをエヌラに見せた。

 「アンタ、見かけによらず凄いんだから、これを使ってアイツらを追っ払ってよ!」

 しかし、エヌラは目を閉じて銃から顔を背けた。

 「拙者、人殺しはもうゴメンでござるよ。」エヌラが最近見たテレビドラマの主人公の台詞を真似した。

 だが、ミアツはこれに激怒してエヌラの頭を銃で殴った。鈍い音と同時に、激痛がエヌラの頭部に走った。

「何す―」

 無数の銃弾が段ボールの壁を突き破って侵入し、銃声がエヌラの声を掻き消した。室内にいた三人は急いで伏せて身を丸めた。ミアツは恐怖で震え、ナマズは顔に苛立ちを浮かべ、エヌラは失禁していた。

 銃弾は室内にある物を破壊し、その破片を周囲に撒き散らした。段ボールの壁も穴だらけとなり、崩れるのも時間の問題であった。

「仕方ないのぅ…」アーマ・ナマズが内職作業で作っていたボールペンを二本掴んだ。「すぐに戻ってくるからのぅ~」

 そう言い残して、全身赤タイツの男が這って段ボールの小屋から出て行った。

 一方、ミアツは右手の拳銃を思い出し、再びエヌラを見た。彼は寝転がった状態で下着を履き替えている途中だった。

(また臆病なスケベ野郎に戻ったみたい…)

 ミアツはエヌラが大男から救ってくれた時、彼のことを少し見直していた。だが、もう彼女の中でエヌラはただの『スケベ野郎』でしかなかった。

(銃なら私でも使える…)

 ミアツは銃把を右手でしっかり握り、弾倉の中身を確認しようとレバーやスイッチを探した。しかし、そのような物は見当たらなかった。面倒くさくなった彼女は、両手の親指で銃の撃鉄を落した。ミアツは仰向けに寝転がり、銃を両手で構えると銃口を出入り口の方に向けた。

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第九回 [銀河極小戦争]

第 九 回








 知らぬ間にアニプラは眠りに落ちていた。

 そして、久々に彼は子供の頃の夢を見た。アニプラにとって、この頃の記憶はあまり楽しいものではない。

 余談ながら、彼のような犬人間種は、ある一部の星を除けば、最下級の奴隷として扱われる。理由は定かでないが、彼らと対立関係にあった馬人間種による欺瞞工作、または第一次惑星間大戦で敗北したコルト星団に加わっていたことが引き金となったと考えられている。

 四歳の頃のある夜、アニプラ少年は母に連れられて野原を走っていた。

 いくら休みたいと言っても、彼の母は「もう少しの辛抱だから」とやさしく言って息子の手を引いた。

  同じ日の朝、二人の持ち主(「飼い主」と呼ぶ者もいる)の家にアニプラ少年に興味を持ち、高値で買いたいと申し出た男がやってきた。男はセミル(現在の水星)から来た商人で、若い奴隷を買い漁っていた。この手の奴隷商人は、子供を使った売春宿の経営をしていることが多い。

  ギャンブルの借金を返すのに丁度いい、と思ったアニプラの持ち主はすぐ契約書を作成した。

 持ち主と奴隷商人の間で契約が交わされた夜、アニプラの母は翌日に息子が売られることを突然聞かされた。悲しみに暮れるアニプラの母は息子に別れを告げようとしたが、幼い我が子の寝顔を見た途端に自分の愚かさを思い知らされた。

 (この子にだって、幸せに生きる権利はある…)

 アニプラの母は寝ていた息子を起こすと、彼の手を引いて持ち主の家から逃げた。

 隣町まであと三十キロと迫った時、背後から迫る音を耳にして、アニプラの母が振り返った。数キロ先に複数の光が見え、彼女はそれがスピーダーのヘッドライトだと気付いた。

 「どうしたの?」アニプラ少年が母の手を引いて尋ねた。

 彼の母は迫り来るスピーダーの群れに目を奪われており、息子に手を引かれるまで我を失っていた。彼女の心臓は高鳴り、緊張で喉が渇いた。

 「走って!」アニプラの母が再び息子の手を引いて走り出した。隠れる場所を探そうとしたが、野原に隠れる場所などなかった。草は低く、伏せてもすぐに見つかってしまう。

 無駄だと分かっていても、アニプラの母は息子の手を引いて走った。

 背後から迫るエンジン音が次第に鮮明となり、スピーダーに乗っている男たちの怒号が聞こえてきた。

 逃げる二人の息は上がり、脚が重たく感じられて走るのが困難になってきた。ちょうどその時、一台の赤いスピーダーがアニプラ少年の真横を通り抜け、驚いた彼は転んでしまった。

 「アニプラ!」アニプラの母が息子に手を伸ばした。そして、手が息子に届くと同時に彼女は、二人を囲むように走り回る四台のスピーダーに気付いた。

 (そんな…)彼女は絶望した。

 ここで捕まればアニプラの母は地下の作業場に送られ、もう二度と地上に戻れなくなる。そして、彼女の息子は奴隷商人に売られ、小児性愛者たちの餌食にされる。

 スピーダーが停まり、中から武器を持った男たちが降りてきた。計八人。

 「逃げちゃだめだよ。逃げちゃ…」黄色に塗られた回転弾倉式拳銃を持つ男が言った。上半身は裸で、下は白いブリーフしか身に着けていない。格好は貧相だが、アニプラたちの持ち主が雇っている腕の良い傭兵であった。

 「す、すみません。ゆる、ゆるし、許して、下さい!」アニプラの母が声を震わせて男に頼んだ。

 「ボクに言われても困るよぉ~。それに…」ブリーフ姿の傭兵が銃口をアニプラの母に向けた。「ボクの仕事は子供を回収すること。アンタのことは好きにしていいって言われてるしぃ~。」

 アニプラの母は言葉を失った。(殺される?息子の前で…?)

 「さよならぁ~。」

 銃声が鳴り響き、ブリーフ姿の傭兵の顎が吹き飛んだ。彼の部下は呆気に取られ、近づいてくる男の存在に気付くことができなかった。

 その男は親指で撃鉄を下ろし、素早く次の的に銃口を向けて引き金を絞った。彼の動きは滑らかで、そして、正確であった。男は七秒の間に六人を撃ち殺し、大半が銃を持ち上げる前に頭部または胸部を撃たれていた。

 残りの二人が銃を持ち上げた頃、男は弾の切れた銃をホルスターに戻し、別の銃を抜いて相手が発砲する前に頭部を撃ち抜いた。

 犬人間種の親子は震えながら近づいてくる男を見つめた。男の行動は二人を救ったようにも見えたが、ただ単にスピーダーが欲しかっただけの行動かもしれなかった。

 二人を他所に男は、死体から銃弾を取って腰からぶら下げていた袋に詰めた。弾を集め終えると、男が拳銃と傭兵たちが持っていた硬貨をアニプラの母に渡した。

 「スピーダーを使えば、7時間ほどでヤビン港に行けだろう。それに、その金を使えば自由も手に入るはずだ…」

 そう言い残して男は、アニプラたちが逃げてきた街に向かって歩き出した。

 去って行く男の背を見ていたアニプラと彼の母は、男の左腕がないことに気付いた。男は二挺の回転式弾倉拳銃を腰からぶら下げ、右腰の銃のグリップは後ろを向いていたが、左腰の銃は前を向いていた。また、銃身と銃床が短く切り落とされた水平二連の散弾銃が、男の背中にあるホルスターに収められていた。

 アニプラの母は去って行く男の背中に頭を下げ、急いで息子の手を引いてスピーダーに乗り込んだ。

 「アニプラ様…」

 声を聞いて目を開けると、部下の姿が見えた。アニプラは椅子の上で小さく伸びをすると、部下に鋭い視線を送った。

 「どうした?」

 「ボルビスが死にました。」

 この報告にアニプラは驚いた。ボルビスは彼の一番弟子であり、部下の中で一番腕の立つ男であった。

 「誰にやられたんだ?」とアニプラ。

 「例の設計図を持っている者が護衛を雇い、ボルビスを殺したようです。」

 (そんな腕の良い奴がこの星に?)

 「そいつの居場所は分かるか?」

 「はい。探査ロボットで追跡しており、既に『切り込み隊』を送りました。」

 (ボルビスがやられたのなら、『切り込み隊』でも無理だろう…)

 「俺の武器を持って来い。ボルビスの仇は俺が取る…」

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第八回 [銀河極小戦争]

第 八 回








 銃を拾い上げて事務所から外に出た時、エヌラたちは既に二百メートル離れた所にいた。
 
 (逃げ足の速い野郎だ…)
 
 大男の目にスピーダーバイクを降りようとしている若い男性の姿が映った。
 
 (これだ…)

 若い男性が大男に気づくと、大男は男性を射殺してバイクに乗り、エヌラとミアツの後を追った。

 エヌラはミアツの走る速度が次第に落ち、早足くらいの速度になっていることに気づいた。ミアツを見ると、彼女は肩で息をしている。

 「もう…走れない…」ミアツがか細い声で言った。

 「頑張れ!もう少しだ!」

 そう言いながらも、エヌラは近くに乗り物が無いか探していた。彼は地下鉄の入口と五メートル先で停車している回送バスを見つけた。

 (地下鉄がベス―)

 二人の頭上を何かが通り過ぎた。反射的にエヌラがミアツの肩に手を回して身を屈め、背後に目をやった。そこにはバイクに乗って追ってくる大男がいた。

 (もう追いつかれた…)

 エヌラは姿勢を低くしたまま、ミアツの手を掴んで走り出した。彼らの後を追うように光線が地面にめり込んで破片を周囲に散らばせた。

 (クソッ!このままじゃダメだ!)

 エヌラは近くにあったスーパーマーケットに入って裏口を目指した。

 二人がスーパーマーケットに入ったことを確認した大男は、バイクを乗り捨てて店に乗り込んだ。店に入ると大男の真横にあった缶詰の山が破裂し、缶詰の中身が大男の視界を奪った。

 ショックガンはエヌラが狙った通りの効果を生み、彼は再びミアツの手を引いて走り出した。

 「クソー!」

 大男は顔に付着した魚の煮物を取り除き、エヌラが向かったと思われる裏口へ急いだ。

 先に裏口に到着したエヌラとミアツであったが、荷物が裏口に続く道を塞いでいた。

 エヌラが別の裏口を探すために周囲を見渡す。この間に息絶え絶えのミアツは呼吸を整えようとした。が、大男を目にした途端に落ち着き始めていた呼吸が早くなり、咄嗟にエヌラの腕を強く掴んだ。

 「やっと追い込んだ…」大男が散弾型光線銃のポンプを引いて言った。

 「下がってろ…」大男を睨みつけながら、エヌラがミアツを自分の背後に押しやった。

 不適な笑みを浮かべると、大男は光線型散弾銃を床に落として上着の陰に隠していた拳銃をエヌラに見せた。

 「ゲームをしよう。早撃ちだ…」と大男。

 エヌラのショック銃はベルトバックルの位置に収められており、すぐ抜いて撃つことも可能である。この時、エヌラは内なる声を耳にした。

 (もしかしたら、ここで死ぬかもしれない。まだミアツをホテルに連れ込んでないし!それにミニスカートの似合う可愛い女の子、もちろん、生足さ!とデートとして、結婚して、違う若い女の子と浮気して、離婚してバツイチのダンディーな男にな―)

 「どうした?ビビッてるのか?」

 「いや…ちょっと考えたのさ…」背中を伝う一筋の汗を感じながらエヌラが言った。

 「何も考える事などないだろう…さぁ、抜けッ!」

 ミアツはエヌラに勝って欲しかった。そうでなければ、二人は殺される。おそらく、警備会社の職員のように四肢を銃で吹き飛ばされるかもしれない。

 「わかったよ…」

 エヌラが応えると、大男は相手の右手に注目した。その手が動いた瞬間に男は拳銃を抜き、エヌラとミアツの命を奪おうと考えていた。

 しかし、これがそもそもの間違いであった。

 ガチン!という音がした。大男は倉庫内の荷物が落ちたのだろうと思って気にも留めなかった。

 「あばよ…」エヌラが呟いた。

 (動く!)と大男が感じ取った時、彼の目に意外な物が飛び込んできた。

 腰の辺りに置かれていたエヌラの左手が九十度内側に曲がり、手首の辺りから突き出た直径四センチほどの穴が大男の方を向いていた。

 (義手?)

 大男が急いで拳銃を抜き、それと同時にエヌラの義手から眩いばかりの光線が放出された。

 あまりの明るさにミアツは目を閉じ、そして、神に救いを求めた。しばらくして、目を開けると、彼女は信じられない光景を目にした。

 光線を直撃した大男の上半身は蒸発し、直立不動の下半身だけが残されていた。しかし、義手の威力はそれだけに留まらなかった。光線の被害は八キロほど先まで及んでおり、光の通った道がトンネルのようになっていた。

 被害を受けた建物の数はエヌラとミアツがいるスーパーマーケットを含めて九軒、幸い死者は0人であったが、光線で髪の毛や服を燃やされた人が七人いた。

 ミアツがエヌラを見ると、義手を持つ変態男が両膝をついて肩で息をしていた。

 「どうしたの?」ミアツが走り寄る。

 「なんかムラムラしてきましゅた。ちょっと、ここで待ってて!すぐに戻って来ましゅ!」

 そう言って、エヌラが近くにあったトイレに駆け込んで行った。

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第七回 [銀河極小戦争]

第 七 回








 闇が訪れた。

 エヌラの目の前が暗くなり、彼は死んだ、と思った。しかし、そのすぐ後に違う光景が目に飛び込んできた。それは彼を挟むように建ち並ぶ廃墟と目の前に立つ細い目をした小柄の男であった。この景色にエヌラは見覚えがあった。

 「どっちから始末しようか…」
 
 細い目の男が短機関銃の遊底を引いて呟いた。
 
 「俺に構わず…逃げ…ろ…」

 エヌラの背後からかすれた男の声が聞こえた。背後に目を配ると腹部から血を流している男がいた。

 「そんなことできるかよ…」短機関銃を持った男を睨みつけてエヌラが言った。彼はこの場を切り抜ける方法を考えた。

 (試してみる価値はあるだろう…)エヌラが素早く背後に手を伸ばした。

 突然、景色が変わった。

 再び光線型散弾銃を持った大男が現れ、エヌラの右手には露天の武器屋で奪ったショック銃があった。そして、それは大男に向けられている。

 大男はエヌラがショックガンを取り出す動きを確認することができなかった。まるで、魔法を使ったかのようにエヌラがショック銃を取り出したように見えた。大男にとって、エヌラの動きを捉えられず、それにショック銃を向けられたことが悔しかった。

 「小賢しい!」大男が散弾銃をエヌラに向ける。

 (トロい…

 エヌラが大男の胸に向けて引き金を二度引いた。一発は外れたが、二発目は大男の右手に命中した。大男の右手に強い衝撃が走り、光線型散弾銃が床に落ちた。再び引き金を引くこともできたが、ショック銃のバッテリーが切れていた。

 「逃げ…ろ…」

 エヌラの耳にその言葉が蘇ってきた。

 「できる訳ないだろうが!」

 今まで情けない部分しか見せてこなかったエヌラが、突然怒鳴ってミアツの右手首を掴んで走り出した。これにはミアツも驚いた。

 (これが『あのチラ見変態男』なの?)

 「この野郎ォー!」

 背後から殺気のこもった怒鳴り声が飛んできた。この声を聞いた途端にミアツは恐ろしさのあまり、鳥肌が立ち、「殺される」と思った。

 (できるだけ遠くに逃げたいッ!)

 ふと、彼女がエヌラを見ると、先程まで彼の顔に広がっていた恐怖の色が消えていた。

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第六回 [銀河極小戦争]

第 六 回







 電話が切れた。

 (あのジジイ。俺のお楽しみを…。まぁいい。プライベートでミアツさんと付き合えばいいのさ!)

 エヌラが立ち止まってミアツの方を見た。釣られてミアツも立ち止まる。

 「社長が私を呼んでましゅ。」

 「でも、あなたは私の警備中でしょ?」

 「そうでしゅ。もしかしゅると、新しい重要な任務かもしれましぇん。」

 「そういう会社なの?あなたの会社は?それって契約違反じゃないの?」

 (確かに。彼女の言う通りだ。じゃ、社長はなんで?)

  「私にも詳しいことはわかりましぇん。よろしければ、一緒に社長の所に行くましぇんか?」

  ミアツにとって、目を見ずに自分の胸をチラ見してくる変態男の申し出は願ってもいないものであった。

 (この男からもっと腕の良い、イケメンのボディーガードに変えてもらおう。)

  「お願いします。」

  二人はタクシーを捉まえてエヌラが勤める警備会社に向かった。その警備会社の事務所は約八百メートル離れた場所にあり、彼らはすぐ目的地に到着した。全くお金を持っていないエヌラはミアツにタクシー代を払わせ、彼女は新しいボディーガードを頼もうと、エヌラよりも早く事務所に乗り込んだ。エヌラは彼女の腰巾着の様に小走りでミアツの後を追った。

  事務所に入った時、ミアツの目に飛び込んで来たものは、おびただしい量の血と六つの死体であった。あまりにも突然のことであり、ミアツは言葉を失った。何事かとエヌラが事務所の中を覗き込んで、ミアツも見た地獄絵図を目撃した。彼の場合、ミアツと違って悲鳴を上げた。

  「キャー!」

  すると、誰かがエヌラの左脚を掴んだ。エヌラが再び悲鳴を上げ、左脚をバタつかせて手を振り払おうとした。

  ミアツがエヌラの脚を見ると、血だらけの男がいた。男はかすれそうな声で「助けて」と言っていた。

 エヌラは助けを求める男の顔面を蹴り飛ばし、事務所から飛び出そうとした。すると、事務所の奥から銃声が聞こえ、次にエヌラの真横にあった壁に大きな穴が開いた。戦意を喪失しているエヌラはその場で腰を抜かしてしまった。ミアツもエヌラと同じく腰を抜かしてその場に座り込んだ。

  「だ~れ~だ~?」

  部屋の奥から大男が現れた。エヌラはこの男に見覚えがあった。この大男はエヌラと一緒に警備会社の面接に来ていた、大量のナイフと光線型散弾銃を持っていた男だった。

  「お前がエヌラか…間抜けだな…」

  大男が散弾型光線銃のポンプを引き、エネルギーのチャージを始めた。

 エヌラとミアツは罠にかかった獣のように、ただ怯えて近付いてくる大男を見ることしかできなかった。

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