第七回 [銀河極小戦争]

第 七 回








 闇が訪れた。

 エヌラの目の前が暗くなり、彼は死んだ、と思った。しかし、そのすぐ後に違う光景が目に飛び込んできた。それは彼を挟むように建ち並ぶ廃墟と目の前に立つ細い目をした小柄の男であった。この景色にエヌラは見覚えがあった。

 「どっちから始末しようか…」
 
 細い目の男が短機関銃の遊底を引いて呟いた。
 
 「俺に構わず…逃げ…ろ…」

 エヌラの背後からかすれた男の声が聞こえた。背後に目を配ると腹部から血を流している男がいた。

 「そんなことできるかよ…」短機関銃を持った男を睨みつけてエヌラが言った。彼はこの場を切り抜ける方法を考えた。

 (試してみる価値はあるだろう…)エヌラが素早く背後に手を伸ばした。

 突然、景色が変わった。

 再び光線型散弾銃を持った大男が現れ、エヌラの右手には露天の武器屋で奪ったショック銃があった。そして、それは大男に向けられている。

 大男はエヌラがショックガンを取り出す動きを確認することができなかった。まるで、魔法を使ったかのようにエヌラがショック銃を取り出したように見えた。大男にとって、エヌラの動きを捉えられず、それにショック銃を向けられたことが悔しかった。

 「小賢しい!」大男が散弾銃をエヌラに向ける。

 (トロい…

 エヌラが大男の胸に向けて引き金を二度引いた。一発は外れたが、二発目は大男の右手に命中した。大男の右手に強い衝撃が走り、光線型散弾銃が床に落ちた。再び引き金を引くこともできたが、ショック銃のバッテリーが切れていた。

 「逃げ…ろ…」

 エヌラの耳にその言葉が蘇ってきた。

 「できる訳ないだろうが!」

 今まで情けない部分しか見せてこなかったエヌラが、突然怒鳴ってミアツの右手首を掴んで走り出した。これにはミアツも驚いた。

 (これが『あのチラ見変態男』なの?)

 「この野郎ォー!」

 背後から殺気のこもった怒鳴り声が飛んできた。この声を聞いた途端にミアツは恐ろしさのあまり、鳥肌が立ち、「殺される」と思った。

 (できるだけ遠くに逃げたいッ!)

 ふと、彼女がエヌラを見ると、先程まで彼の顔に広がっていた恐怖の色が消えていた。

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第六回 [銀河極小戦争]

第 六 回







 電話が切れた。

 (あのジジイ。俺のお楽しみを…。まぁいい。プライベートでミアツさんと付き合えばいいのさ!)

 エヌラが立ち止まってミアツの方を見た。釣られてミアツも立ち止まる。

 「社長が私を呼んでましゅ。」

 「でも、あなたは私の警備中でしょ?」

 「そうでしゅ。もしかしゅると、新しい重要な任務かもしれましぇん。」

 「そういう会社なの?あなたの会社は?それって契約違反じゃないの?」

 (確かに。彼女の言う通りだ。じゃ、社長はなんで?)

  「私にも詳しいことはわかりましぇん。よろしければ、一緒に社長の所に行くましぇんか?」

  ミアツにとって、目を見ずに自分の胸をチラ見してくる変態男の申し出は願ってもいないものであった。

 (この男からもっと腕の良い、イケメンのボディーガードに変えてもらおう。)

  「お願いします。」

  二人はタクシーを捉まえてエヌラが勤める警備会社に向かった。その警備会社の事務所は約八百メートル離れた場所にあり、彼らはすぐ目的地に到着した。全くお金を持っていないエヌラはミアツにタクシー代を払わせ、彼女は新しいボディーガードを頼もうと、エヌラよりも早く事務所に乗り込んだ。エヌラは彼女の腰巾着の様に小走りでミアツの後を追った。

  事務所に入った時、ミアツの目に飛び込んで来たものは、おびただしい量の血と六つの死体であった。あまりにも突然のことであり、ミアツは言葉を失った。何事かとエヌラが事務所の中を覗き込んで、ミアツも見た地獄絵図を目撃した。彼の場合、ミアツと違って悲鳴を上げた。

  「キャー!」

  すると、誰かがエヌラの左脚を掴んだ。エヌラが再び悲鳴を上げ、左脚をバタつかせて手を振り払おうとした。

  ミアツがエヌラの脚を見ると、血だらけの男がいた。男はかすれそうな声で「助けて」と言っていた。

 エヌラは助けを求める男の顔面を蹴り飛ばし、事務所から飛び出そうとした。すると、事務所の奥から銃声が聞こえ、次にエヌラの真横にあった壁に大きな穴が開いた。戦意を喪失しているエヌラはその場で腰を抜かしてしまった。ミアツもエヌラと同じく腰を抜かしてその場に座り込んだ。

  「だ~れ~だ~?」

  部屋の奥から大男が現れた。エヌラはこの男に見覚えがあった。この大男はエヌラと一緒に警備会社の面接に来ていた、大量のナイフと光線型散弾銃を持っていた男だった。

  「お前がエヌラか…間抜けだな…」

  大男が散弾型光線銃のポンプを引き、エネルギーのチャージを始めた。

 エヌラとミアツは罠にかかった獣のように、ただ怯えて近付いてくる大男を見ることしかできなかった。

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