第三回 [銀河極小戦争]

第 三 回





 「何をお探しですか?」

 黄ばんだ白いタオルを頭に巻いた中年の男がエヌラに尋ねた。

 今、エヌラは露天の武器屋にいる。彼は新しいバイト先を見つけたが、そこはボディーガード会社であり、有名な『グスタム・セキュリティー』の下請け会社であった。

 この会社がエヌラに支給したものは、社員証とプラスチックのバッジだけであった。会社は、武器は各自で用意しろと言った。彼と一緒に面接に来ていた大男は大量のナイフと散弾型光線銃を持っていたが、エヌラは何も持っていなかった。

 エヌラは格安で手に入る武器屋を探し、やっと露店の武器屋を探し出した。

 「おやじ、お勧めの品は何だ?」エヌラが青いビニールシートの上に並べられている武器を眺めた。

 「お勧めの品ですか…」

 武器屋の店主は、いい「カモ」が来たぜ、と思っていた。

 (高値でガラクタを売りつけてやろう。)

 店主はエヌラの身なりを見た。全身赤タイツ姿に白いリュックサックを背負ったエヌラは、とてもカネを持っているようには見えなかった。それにプロにも見えなかった。

 (適当なことを言ってガラクタ拳銃を売りつけて追い払うか…。いや、その前に礼儀として「カモ」の好みを聞いてみるとするか…。)

 「お客さんは、どのような武器をお探しですか?」

 「そうだな…光線銃が欲しい。できれば、小型の…」

 (光線銃か、貧乏人のクセにしゃれた物を欲しがる野郎だ。威力の弱い、ご婦人向きのショック銃を五百ベルガー[約五万円]で売りつけよう。)

 「これはどうでしょうか?」

 中年の店主が小さな緑色の水鉄砲に似た拳銃をエヌラに渡した。

 「五百ベルガーでお安いですよ。それに威力も充分です。象も一撃で倒せますよ!」

 「なるほど…。しかし、私はそこまで金を持っておらんのだ。」

 「いくらお持ちですか?」

 「十五ベルガーだ。」

 (十五ベルガー[約千五百円]?そんなはしたガネで銃を買おうと考えているのか、この野郎は…。ショック銃も買えないじゃねぇか!)

 「その予算で光線銃は難しいですよ、お客さん。」

 それを聞いたエヌラはショック銃で店主の腕を撃った。彼はショック銃の性能を知っていたので怯むことはなかった。逆に次は股間を撃ってやろうと、銃口を股間へ向けた。

 「この野郎!」店主が拳銃型光線銃を取り出し、エヌラに向けて引き金を引いた。

 だが、エヌラの方が早かった。素早く引き金を絞り、電気ショックが店主の股間に流れた。

 黄ばんだタオルを頭に巻く店主が「あひぃ~」と叫びながら倒れた。転倒する途中、店主は銃の引き金を引いて自分のテントに複数の穴を開け、最終的に地面に頭をぶつけて気を失った。これによって辺りが騒がしくなった。

 (この場から逃げなければ…)

 エヌラはショック銃を持ったまま走り出した。

 人通りが少ない道に入って追っ手がいないことを確認すると、エヌラは薄暗い路地に滑り込んだ。そこで彼は全身赤タイツを脱ぎ、リュックサックから白いタキシードを取り出した。

 これからエヌラは五キロ離れた広場で依頼人と会う約束をしている。

 白いタキシードを着たエヌラは、親戚の披露宴で花束を渡す子供のようであった。このタキシードは近所の貸衣装屋から無断で拝借してきたものであるから、依頼人と合流してホテルに連れ込んだら捨てるつもりであった。

 エヌラとしては、できるだけ人目に付かないように移動したかった。しかし、込み上げてくる性欲に敗けた彼は、スピーダーバイクを盗んで待ち合わせ場所へ急いだ。多くの人々が白いタキシード姿の男を目撃し、その情報はすぐ貸衣装屋の耳にも入ったし、エヌラの同棲相手であるアーマ・ナマズの耳にも届いた。

 広場で依頼人を待つエヌラは、その場で一番浮いた存在になっていた。ここにはSAGGのメンバーも多数いたが、人々はエヌラのコスプレに目を奪われた。

 注目されることを好むエヌラは目を閉じ、両手をスラックスのポケットに入れ、電子広告宣伝板に背をあずけていた。
 
 (俺ってカッコイイィ!)

 待つ間、エヌラは依頼人がどのような美女か妄想を膨らませていた。

 (絶対にミニスカートで来るだろう。そして、生足だ。)

 この男は病的なほどに生足、生足と頭の中で唱えていた。また、彼は常に妄想と現実に大きな差があることを知っていながらも、これから出会える人物が美女だと信じていた。

 「エヌロさんですか?」

 可愛らしい女性の声がエヌラの前から聞こえてきた。

 女性の声を聞いて有頂天になっていたエヌラは、女性が人違いをしていることに気付いていなかった。

 (来た!)

 エヌラが目を開けて女性の身体を見た。まず、彼の目に飛び込んできたのはピンク色のスニーカーと小麦色の細い脚であった。彼が望んだ通りに女性は生足であり、胸を高鳴らせて視線を上げた。次に見えたのはデニムのミニスカート、さらに視線を上げるとライトグリーンのTシャツが見えた。

 (これは可愛いに違いない。)エヌラは確信し、女性の顔に視線を移動させた。そこで彼が見た物は「河馬」だった。

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