Episode 1 [英雄たちの戦い]

Episode 1

 演奏会を控えた吹奏楽部員たちが、いつもより真剣に練習していた。

 生徒会の集まりで団長が不在であるため、副団長のユウタが指揮棒を持って部員全員を集めたリハーサルを行なった。リハーサルであるにも関わらず、部員たちは本番前夜を思わせるほどの張り詰めた緊張感を出し、それが音楽室を満たしていた。
 
 (いい感じだ…)指揮棒を適当に振り回しながらユウタは思った。

 指揮者を見ず、楽譜だけを頼りに演奏する部員たちは今までの練習の成果を発揮しようと努力していた。特に三年生は最後の演奏会ということで気合いが入っており、後輩たちも世話になった先輩のために気を引き締めてリハーサルに臨んだ。

 その様子を見て感極まったユウタは目に涙を浮かべ、指揮棒を振る右手に力が入った。

 (この一体感!これぞ、わが吹奏楽部の―)

 その時、締め付けるような痛みがユウタの腹部を襲った。あまりの痛さに彼は前傾姿勢になり、指揮棒を振る手の動きが次第に小さくなる。

 (何故だ!何故、こんな時に―)

 痛みが強くなり、それと同時にユウタは強い便意を覚えた。

 (あの焼きそばパンだッ!購買で買った…あの半額になっていた…あのパンに違いないッ!)

 腹痛は次第に強くなり、その勢いが収まる気配はなかった。我慢していれば痛みは引くと思い、ユウタは前傾姿勢になって誰も見ていない指揮棒を振り続けた。

 (ダメだ…このままでは…)

 演奏が終盤に差し掛かった時、腹痛と便意に襲われるユウタの手が止まり、指揮棒が天井に向けられた。偶然、その姿を部員の一人が目撃した。彼女は一時停止ボタンを押された機械のように固まるユウタを見て吹き出し、演奏していたトロンボーンの音が乱れた。他の部員たちはそのミスから発生する新たなミスを防ぐために集中力を高めた。

 ユウタの顔は真っ青になり、我慢の限界に差し掛かっていた。

 (もう…無理…ぽ…)

 指揮棒を落とし、ユウタは静かに、ゆっくりと動いてトイレへ向かった。指揮者を失っても演奏は継続され、誰も彼が消えたことに気付かなかった。

 ゆっくり一歩一歩進んでユウタはトイレに到着した。大便用の個室に到着するまで、彼は腹部を刺激しないように動き、個室に入ると施錠もせずに制服のスラックスを素早く脱いで便器に腰掛けた。気が緩んだためか、ユウタの意思に反して腹痛の原因となっていた物が凄まじい勢いで放出された。

 形容し難い解放感。

 ユウタを苦しめていた物は一瞬にして消え去った。腹痛から解放されたユウタはトイレットペーパーへ手を伸ばした。しかし、彼がそれに触れることはなかった。


To be continued...?


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