最終話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]
最終話「ユウタ、永訣!!」
イルボーヌス・武田を倒したユウタは使用した軽トラックをレンタルDVD店の駐車場の端に止め、バイト先の知り合いに紹介してもらった神戸という男に会うため待ち合わせ場所に向かった。そして、彼は居酒屋で会った神戸からある物を購入し、大型スーツケースに入っていたそれをコインロッカーから取り出した。
(完璧だ…)
その時、ユウタの携帯電話が震えて彼は画面を確認する。そこには『クソ野郎・ケンちゃん!!』とある。
(さて、ショータイムの時間だ!)
「もしもし?」渋い声でユウタが電話に出る。
「おっさん。アンタの言ってたイルボなんとかつう男が病院に運ばれてきたぜ。手遅れみたいだけど…」
「残念だ。それで奴に会いに来た男はいるか?」ユウタがレンタルした乗用車にスーツケースを入れて言う。
「アンタの言ってた沢辺つう男か?いや、まだ来てない。」
「そうか。ミクは待機してるのか?」
「あぁ。沢辺が来たらイルボなんとかの親戚つう設定で近づければいいんだろ?」
「そうだ。」
「金は?いつ貰えるんだ?」
「仕事が終われば払う。急いでるから、沢辺が来たらメールかLINEで知らせてくれ。」そう言って、ユウタは一方的に電話を切った。
電話を受けるなり、沢辺はアパートから飛び出してイルボーヌス・武田が搬送された病院へ急いだ。それを車の中から見ていたユウタはニコニコ動画を見ながら、ケンからのメッセージを待った。数十分後にケンから「沢辺が来た」とのLINEメッセージを受け取り、彼はスーツケースを持って元上司の部屋に向かった。
一方、病院では沢辺とイルボーヌス・武田の親戚を名乗るミクが出会って、亡くなった男について適当なことを話していた。沢辺もイルボーヌス・武田のことはあまり知らず、ミクのデタラメも真実のように聞こえた。
「私はちょっと…イルボーヌスの両親とはあまり仲良くないので、そろそろ帰りますね。」とミクが言う。
「なら、送りますよ。」下心を込めながら沢辺が言う。
「お願いします。」
ミクの演技力はアカデミー賞並みであったか、若しくは沢辺がバカなのか、二人が沢辺のアパートに向かうのをユウタは見守っていた。
(下準備は整えた。あとはケンとミクの活躍に期待しYOぉ!)
そう彼が考えていると、金属バットを持ったケンが沢辺のアパートに近づこうとしていた。彼はミクとの結婚を考えており、今回は利益を独占するためにミクと二人でユウタの作戦を実行しようとしたのだ。ミクはユウタの関与を知らされておらず、ケンは「美味しい仕事が入った」としか告げてなかった。
予めケンはユウタから沢辺の住所を知っていたので、沢辺が最愛の女性と部屋に消えるのを見ると間を開けずに沢辺宅のドアをノックした。
「どなたかな?」沢辺がドアを開けた。
すると、ケンはドアを勢い良く押して、沢辺を部屋の奥に突き飛ばした。
「な、何だね?君ッ!?」と禿げ頭の元教頭が叫ぶ。
「ミクッ!何所だ!?」
「ケンちゃん!!」
盗聴器越しにこのやり取りを聞いていたユウタはニヤニヤしていた。
(これで終わりだYOォ…)
「てめぇ、俺の女に何して―」
ミクの安全を確認したケンは沢辺の方を見る。しかし、そこに男はいなかった。
「キャーーーーーーーー!!」ケンの交際相手が悲鳴を上げた。
何事かとケンが視線を動かすと、拳銃を持った沢辺がいた。彼が持っているのは中国製の偽トカレフであり、東京に仕事の拠点を移してから護身用に持っていたのだ。
「おどりゃ、調子にのりおってよぉ…」沢辺の拳銃を持つ手は震えていた。恐怖からではなく、怒りからであった。
事態はケンが想像してよりも厳しいものであった。ユウタの話しでは、沢辺は気の弱いエロオヤジであったが、実際は違法拳銃を持つイカれた野郎であった。
「ミク、逃げろ。」沢辺から目を離さずにケンが言った。
「でも…」目を潤ませながらミクが言う。
「いいからッ!!」
(すげぇ、ドラマチックじゃんかYO!さっさと沢辺も撃っちゃえYO!つうか、ユー、撃っちゃえYOOOOOOOOOOOOOOォ!!!!!!!!!!!!!)
昼ドラの視聴者のような感覚に陥っているユウタはこのようなことを考えていた。
ミクは靴も履かずに部屋を飛び出し、ケンと沢辺はずっと睨み合った。
「おどれだけでもヤるぞ…」と沢辺。
「やってみ―」
その時、沢辺が引き金を引いた。撃針が雷管を叩き、その摩擦によって生じた火花が薬莢内の火薬に引火し、膨張したガスが薬莢内を満たしてそれが弾丸を押し出す。弾丸は銃身を通って銃口から飛び出して、その際にパッと燃焼時に発生した火も銃口から出た。
地球全体が揺れる様な大きな衝撃が起こると同時に炎が沢辺のアパートの窓を突き破り、破片と火の粉を周囲にばら撒く。
「デュフッ、デュフッ、デュフフ、デュフフフ、デュフフフフフフフフフフフフフゥ!フゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」ユウタは声を上げて笑った。
彼は沢辺が病院に行っている間に部屋に液化石油ガスのボンベと盗聴器を設置してきた。ガスは神戸という男に頼んで、着臭前の物を入手したのでガスの元栓を開けても腐った玉ねぎのような鼻を突く臭いはしなかった。ゆえに沢辺もケンも部屋に可燃性のガスが充満していることに気付けなかったのだ。
「デュフフ…愉快。愉快。でも、まだ仕事は残ってるYO…」
沢辺宅から400メートル離れたスーパーマーケットの横でミクは身を丸めて座っていた。彼女の交際相手とはここで落ち合うことになっているのだ。正直、爆発音を聞いた時からケンの死を予感していたが、彼女はそれを認めたくなった。
(ケンちゃんは絶対に来る。絶対に…約束したもん…)
「ミク…?」
自分を呼ぶ声がして彼女は顔を上げる。そこにはホームレスのような恰好のユウタがいた。しかし、ミクはもうユウタのことなど憶えていない。
「誰?」
「僕だYO。ユウタだYO。」
「ユウタって…あのおっさんの?」
男の正体を知ってミクは恐怖をした。彼女はユウタにずっと追われていたのかと思い、逃げ出そうと立ち上がる。
「待って、ミク。話しがあるんだYO!君の彼氏のことだYO!!」
走ろうとしていたミクは足を止める。「ケンちゃんはどこにいるの?」
「彼は君を置いて逃げたよ。金を独り占めするつもりさ。」
「嘘よ!ケンちゃんは―」
ミクがユウタの話しに夢中になった時、ゲスいユウタは彼女を突き飛ばした。突き飛ばされるとミクは道路に飛び出し、運悪くやってきた2トントラックに轢かれてしまった。即死であった。
何事も無かったかのようにユウタはスラックスのポケットに両手を入れ、その場から歩き去った。
この時、ユウタの頭の中である曲がかかっていた。それはゲスの極み乙女の『ロマンスがありあまる』であった。そして、ふと彼は思い出した。
「今日はバトルソウルの新シリーズ『灼熱のホラッチョ編』の発売日だ!買いに行かないと!!」
ユウタはカードを買うために走り出した。そうメロスのように…
完
長い間、ご愛読ありがとうございました!
8月と9月に『返報』を公開する予定!今年かどうかは分からんけど…
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