第9話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]
第9話「ユウタ、反撃!!」
借金してまで購入したベンツを月極駐車場に入れると、遠藤は尾行を警戒しながら駐車場を後にして200メートル程離れたボロアパートの一室に近づく。鍵を取り出しながら何度も背後に目を配り、尾行がいないと確認するや否や部屋に入った。
ゴミとバトルソウルのカードが散乱する自分の部屋に入ると遠藤は倒れるようにしてベッドに身を沈める。
「あれだけ喋って10万とかふざけてるぜ。全くよ~前はもっと弾んでくれたつうのに!」悪態つくと、遠藤は疲れて眠りに落ちた。
目覚めると遠藤は卓袱台にガムテープで縛りつけられていた。両手はテーブルの脚に、腰はテーブルの真ん中にガムテープでしっかりと固定され、脚は閉じられないよう洗濯竿に股を開いた状態で固定されている。
「金持ちのフリをしてるのは何となく気付いてたけど、それを表面的に続けるためだけに執拗に尾行を確認するのは変だと思ったんだYO。」ユウタが言う。「アンタのことだから、家に稼いだ金を隠してるかもしれないと…」
「ゆ、ユウちゃんか?金なんて持ってないぞ!」遠藤はユウタの主張を否定する。ユウタの声は聞こえるが、背後にいるために中年男はかつて騙した男の顔が見れない。
「なら、屋根裏にある金庫は何なんだYO?」ユウタの質問は続く。「暗証番号を言えば、命だけは助けてやろうかと思ってるYO。」
「ぶっ殺すぞ!!」
「そうかYO…」静かにそう言うと、ユウタは持っていた大型水鉄砲を構える。「残念だ…本当に残念だYOッ!!!」そして、遠藤の尻に狙いを定めると引き金を絞った。
ユウタはこの拷問の効力を知っている。中学と高校の吹奏楽部でこの拷問を受けてきたユウタにとって、大型水鉄砲の水圧を至近距離で浴びることは快楽と激痛をもたらす儀式の一つであった。
それはさて置き、あまりにも屈辱的な行為に遠藤は金庫の暗証番号を漏らした。ユウタはそれをメモして冷蔵庫に磁石で張付けると、上着の下に隠していたウェストポーチを取り出して金庫を開けた。中には800万円あった。ユウタはその半分を取ると金庫を閉め、卓袱台に縛り付けられている遠藤を見る。
「おい!早く俺を解放しろ!」と遠藤が言う。
「まだだ。明日の朝には植松がここに来るからな。」
「どういうことだ?」
「植松も金を取り戻しに来るYO。それにアンタを辱めるために…グッバイ、ブラザー!おっと、英語を使ってしまったYO…」
遠藤が叫ぶ中、ユウタはボロアパートを後にして久々に風俗で遊びことにした。携帯電話を見ると沢山の不在着信があり、それは部下の身を案じた佐久間からの着信であった。
(うぜぇオヤジだな。メシを奢ったくらいで調子に乗りやがってYO~)
大金を得たユウタはご機嫌であり、風俗で56万円も浪費してしまった。最高の気分であるユウタが繁華街を歩いていると、見覚えのある男とすれ違い、その男はパチンコ店へ入っていた。
(あの野郎は…ケンちゃんじゃねぇか~野郎、こんなところで―)
その時、ユウタの頭に壮大計画が浮かび上がった。全てはカードゲーマー時代に培ってきた経験である!と彼は思っていた。ユウタは込み上げてくる笑みを抑えながら、ミクの交際相手であるケンちゃんの後を追ってパチンコ屋に入った。
「あぁー!あぁー!あぁー!」イルボーヌス・武田が叫ぶ。
「まだだ!まだ終わらんぞ!」沢辺が額に汗を浮かべながら言う。
二人は“お楽しみ”の最中であった。これで何度目になるのか、彼らにとって『ラウンド数』という概念は無かった。あるのは『楽しみ』だけである。
テレビ画面に『K.O.』の文字が表示され、イルボーヌス・武田はコントローラーを床に叩きつけた。
「また負けたぞよ。」
「まだまだ弱いな、イルボーヌス・武田。」
この男たちはブックオフで買い漁った格闘ゲームを日が暮れるまでプレイしていた。金はユウタのような無知な債務者から巻き上げれば良い。抵抗する者たちはイルボーヌス・武田が制裁を加え、最後に『もっと酷い目に遭うかもねぇ~』という決め台詞を残す。残念ながら、ユウタは沢辺の介入があったためにこの名言を聞くことができなかった。
「ダディー」イルボーヌス・武田が言う。「酒がねぇずら。買ってくるから、カネをくれ。」
沢辺はポケットから札束を取り出して3万円を相棒に渡す。「暗くなってきたから気を付けるんだぞ。」
「わーってるずら。行ってくるずら。」
イルボーヌス・武田は札を握りしめて近所のコンビニへ走った。そして、その道中、彼は軽トラックに轢かれた。その衝撃は大きく、彼は3メートル先まで吹き飛ばされた上にアスファルトの地面に叩きつけられた。
「大丈夫か?」軽トラックの運転手が血だらけになっているイルボーヌス・武田に尋ねる。折れた肋骨が肺に突き刺さったため、イルボーヌス・武田は呼吸が上手くできず、喋ることもできない。
「酷いな…」そう言うと軽トラックの運転手である滝川ユウタは、上着のポケットからライター用オイルを取り出す。「アンタだったら軽トラくらい、軽々と避けられると思ったのにYO…俺の期待を裏切りやがってぇYOォォォーー!!!!!!!!!!!!!!」
ユウタはオイルをイルボーヌス・武田の体に注ぎなら、「オラ、オラ、オラ、オラ、オラ、オラララララッ!!!」と行為にそぐわない声を上げる。彼は最後にマッチ箱を取り出し、それをイルボーヌス・武田の横に置く。
「これは俺からの情けだYO!苦しいなら、それで自決するんだ!」
理由は分からないが、イルボーヌス・武田はユウタのゲスい行為に感動していた。
(なっ、なんてやさしい人なんだぁ~!!)
「あばYO!」
ユウタは再び軽トラックに乗り込み、イルボーヌス・武田は自決しようとマッチ箱に手を伸ばそうとする。息苦しくて体を動かそうにも、体は言うことを聞かない。どうにかして右腕を動かした時、ユウタの乗る軽トラックが再びイルボーヌス・武田を轢いた。これは故意ではなく、事故であった。
「あっ、やっちまったYO!まぁ、いいかぁ~」
そして、ユウタは次の標的を倒すための行動に移り始めた。そう、沢辺を倒すために…
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