第7話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]

第7話「ユウタ、消沈!!」

 

 人気の少ない居酒屋のカウンター席の端に二人の男が並んで座っている。一見、仕事を終えて雑談を交わしている中年男性二人組にしか見えない。

「金は?」作業服姿の男が開口一番に言った。

 ユウタは何も言わずに埃と煤で汚れた深緑色の上着のポケットから8万円を取り出して男に渡す。40第半ばに見える作業服姿の男は疑い深く紙幣の枚数を数える。一方、ユウタは男の胸のポケットに刺繍で入れられた名前を見る。そこには神戸とある。

 「確かに…」神戸は金をスラックスのポケットに乱暴につっこむと、上着のポケットから黄色い「5」と書かれたプレート付きの鍵を取り出してそれをテーブルの上に置く。「この通りにコインロッカーがある。アンタの荷物はそこだ。」

 「分かった。」

鍵を取って店を後にすると、ユウタはコインロッカーがある場所に向かった。ロッカーの番号を確認して開錠し、中を確認すると大型のスーツケースが入っていた。鞄の中を携帯電話の明かりを使って確認するなり、ユウタはジッパーを閉じてスーツケースをロッカーから引きずり出した。

 

 

 

 

 

 全裸で正座するユウタ。彼を囲うようにして座る男3人。浴槽で鼻歌を歌うミク。

 「アンタ、最低な野郎だぜ!」2サイズは大きであろうスエットシャツを着た男が言った。この男がミクの彼氏:ケンちゃんである。「聞いてんのか?」

 ユウタは恐怖のあまり何も言えなかった。

 「おい、コラッ!」ケンの隣にいた男がユウタを怒鳴りつける。

 「で、でも、ぼ、ぼ、ぼきゅはミ、ミクに彼氏がいる…だ、なんて…しら―」

 「何言ってんだ、お前?俺の女を襲いやがってよ~ホントだったら絞めてるところだぜ。」ケンはジーンズから煙草を取り出して火を付けた。「それにミクはまだ17だ…」

 「えっーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!?????????」ユウタは部屋に響き渡るほどの大きな声を上げた。

 (オレェ、JKとヤったの?すげぇじゃん。快挙じゃん!俺は青春を取り戻しているんじゃない?そうだよ。そうに違いないィーーーーーー!!)

 「黙れ」ケンがユウタの右頬に平手打ちを浴びせる。「未成年相手に何やってんだよ、おっさん。ちっとは反省しろよ。」

 「でもさ~」ユウタは友達感覚でケンに話しかけた。「お前にも非があるんじゃね?ミクはお前に愛想つかしたんだよ。彼女は愛に飢えていたのさ。だから―」

 その場にいたユウタ以外の人間全員が笑った。ユウタはそれが理解できなかった。

 (コイツら、俺が正論を言ったから精神が崩壊したのか?)

 「アンタって底なしのバカだね!」着替えを済ませたミクが現れた。「自分のやったこと自覚してないでしょ?」

 ユウタの思考は固まった。(どうして?ミク?君は俺の嫁になる女なのに?子供も二人ほど作って、ほどほどに浮気してから三人目を作って、それからそれから―)

 「どう落とし前をつけるつもりだ、おっさん?」ケンがユウタの顔を覗き込みながら問いかける。

 「お金ですか?それでいいですか?口座に200万程度あるので、それでいいですか?」ユウタ自身、自分で言ったことが信じられなかった。

 「アンタがそう言うんなら、それで手を打とうぜ…」

 (俺は負けたんだ…この駆け引きに…ミクを助けることができなかった。コイツらはミクを騙し、俺のような良心的なイケメンを狩っているのだろう…)

 「早く服を着ろよ、おっさん!」

ユウタの左隣にいた青いニット帽をかぶった男が言った。ユウタはゆっくりと立ち上がるとブリーフを掴んだ。彼が着替えを始めると三人の男たちは一斉に携帯電話を取り出して雑談し始め、髪を乾かしたミクもその三人に加わる。

(雑魚どもめッ!!)ブリーフ姿のユウタはエナメルバッグを抱えてドア目がけて走り出した。彼は4人が着替えを始めれば隙を見せると考えたのだ。これはカードゲーマーとして経験を基にした戦術である!としておこう。

ユウタが走り出すと4人は呆気に取られたが、すぐに下着姿の男を追いかけた。4人が動いた時、ユウタはドアを開けて廊下に飛び出す。

走るユウタ。彼を追う男3人女1人。

奇跡的にもユウタはどんどんと追手との距離を伸ばしてエレベーターホールに近づく。

(俺の勝ちだぁーーー!!!)

ここでユウタはある決断を迫られた。逃げる彼の前に部屋の掃除を終えた清掃員が現れ、その中年女性は片手に黄色い何かを持っていた。清掃員はそれを廊下の脇に置いていた清掃用具入れに投げ捨てるも、その黄色い物体は廊下の真ん中に落ちた。ユウタはその物体が何か分かった。それはバナナの皮であった。

追われる身のユウタは決めなければならなかった。「真剣に逃げる」または「笑いを取る」。

バナナの皮との距離は近づいて行く。

(ええいぃ!何を迷っているんだ!)

危機に瀕した獣の様に神経を研ぎ澄ますユウタは迷わず決断を下した。そう、彼は正しい選択を選んだ。

 

 

 

 

  ブリーフ姿でコンビニまで連れて来られたユウタは渋々、そこのATMで100万円を両親の口座から引き下ろした。ATMの引き出し制限があるため、一度に200万を取り出すことはできない。ゆえに日付が変わると同時にもう100万を引き出すよう命令されている。

 ケンの車で一行は別のATMがあるコンビニへ向かい、日付が変わるとすぐユウタは再び100万円を引き出した。札束を取り出し口から抜こうとした時、タッチパネルに数滴の滴が落ちる。ユウタは自分の涙だと思ったが、実際は鼻水であった。自分が哀れで仕方なかったのだ。

 永遠の愛を誓うものだと思っていた女性が男たちと組んで美人局を行い、ユウタは愚かにも両親が必死に貯めていた大金の大半を失おうとしている。

 「今度から気を付けろよ、おっさん。」そう言うと、金を受け取ったケンたちはブリーフ姿のユウタを残して去って行った。

 どれほどの時間を歩いたのか、気が付けば辺りは黎明の色に染まっていた。ユウタはまだ某インターネット掲示板や複数のSNSサイトで『徘徊するブリーフ男』として有名になっていることなど知らない。しばらく歩き続けていると、ユウタはラップ音楽を耳にして自然と彼はそちらへ歩を進める。

 「戦争法案、絶対反対!」

このリードコールを聞いた群衆が同じフレーズを繰り返す。

「ABEを許すな!」

この群衆を遠くで見ていたユウタは何故か吸い寄せられるように、国会前で行われているデモの群衆に近づいた。

(そうだ。俺の人生が狂い始めたのはABEのせいだ。アイム・ノット・ABE。そうだ。彼らは正しい!ABEが全ての元凶だ!奴がいるから俺は職を失い、美人局にも遭い、カード大会の予選で負けたんだ!!彼らの仲間になろう!日本を変えるんだ。民主主義だ!立憲主義を暴走するABEから守るんだぁ!!)

「うおおおおおーーーーーーー!!!!!!!」

ユウタは走った。そう、彼は日本を変えるために立ち上がったのだ!

 

 

ご愛読ありがとうございました。

来週の金曜日から『革命家・滝川ユウタ!!』が始まる!かも… 

(次回もいつもと同じタイトルで5月20日に公開します。) 


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