第4話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]

第4話「ユウタ、上京!!」

 

 「困った物ですな~」ユウタが校長室を去ると教頭がすぐ口を開いた。彼は重々しい空気から逃げたかった。

 「ところで沢辺きゅん…」校長はまだ外を眺めている。「高野先生とヤってるってホント?」

 夕日を浴びて輝いている禿げ頭に汗が浮き上がった。暑さからではなく、校長の問いかけによって起こった反応であった。

「な、何をおっしゃっているんですか?」教頭が校長の方へ体を向けて言った。

「あのヤリ○ンとヤってんのかって聞いてんのぉ~」

教頭はたじろいだ。この校長の問いにどう答えるべきなのか、彼は色々と思考したが100パーセント良い回答は見つからなかった。そして、代わりに無言で貫くことにした。

「沢辺きゅん…」校長は教頭の隣に移動し、毛深い禿げ男の手を握った。「どうして、僕を裏切ったりしたんだい?寂しいよぉ…」

「許してくれ!!」

これ以上、言葉を交わすことは無駄だと思った教頭は校長に抱きついた。熱い抱擁を交わす二人は、ユウタにその様子を盗撮されているとは夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

 「久しぶりだね、滝川先生…」テンガロンハットを被った沢辺が言った。

 ユウタは黙って元上司を見つめる。

 「安心してくれ。私も辞職したんだ。誰かが私と校長の密会現場の写真をリークしたからね…」

 ユウタは何も言わない。

 「滝川先生…いや、今は滝川さんかな?あれをやったのは君か?」

 「知らないですよ。急いでいるので、また今度にしてもらえますか?」

 「こんな真夜中に?どこに行くんですか?」沢辺はねちねちと質問を繰り返す。

 「どこでもいいじゃないですか…それではッ!」

 ユウタが車を走らせようとすると、沢辺は大きな音を立ててパッソに窓枠を掴んでユウタの動きを止める。

 「実はですね~前の職を辞めてから、私は金融屋になったんですよ。風の噂で滝川さんがお金に困っていると聞いてねぇ~」

 「間に合ってます!」ユウタはこの場から逃げ出したくて仕方が無かった。

 「いつでも貸しますよ。いくらでも構いません…」

 (いくらでも?)

沢辺の誘いはとても魅力的であった。すぐにでも50万円を用意して遠藤に投資しないといけない。両親の300万から50万を引き出そうと考えていたが、もしかしたら両親が引き出し制限をかけているかもしれない。となれば、億万長者になる道が断たれる。

50万…50万円貸してもらえますか?」

「もちろん…」黄ばんだ歯を見せて笑うと、沢辺は赤い色のウェストポーチから札束を取り出した。彼はプルプル震え手で札の数を確認するとそれをユウタに手渡した。

「ありがとうございます。」

「利息は10日で6割です。期限はしっかり守って下さいよ、滝川さん…」そう言うと、沢辺は幽霊のように姿を消した。

大金を手にしたユウタの耳に利息という言葉は届いていなかった。彼は遠藤の家へ急いだ。億万長者になると信じて…

 

 

 

 

東京。

そこは29年間故郷から離れたことのない滝川ユウタにとって異国のように見えた。まだ空港にいるにも関わらず、彼は東京に圧倒されている。

(人ッ!人ッ!人ッ!人ッ!人が多いッッッッ!!!!!!!!!)

 彼は早足で歩く人々に恐れ、キャリーバッグを引いて壁に張り付く。

 (こ、こ、こ、こ、こ、これが!トォーキョウゥ!!!!!!)

 あまりの人の多さに嘔吐に襲われたユウタはしゃがみ込み、困った時にいつも唱えている呪文を口ずさんだ。

 「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、テクマクマヤコン…」

 「大丈夫ですか?」空港職員の女性がしゃがみ込んでいるユウタに尋ねた。

 呪文に夢中になっていたユウタは突然のことに驚き、飛び上がって前屈みになっていた女性職員の顔面に頭突きを喰らわせた。強烈な頭突きを受けた女性は両手で鼻を抑えて後退し、急いで鼻の下に触れて出血の有無を確認する。彼女の指には真っ赤な血が付着していた。

 「ひっ!ひいぃぃぃーーーーー!!!!」ユウタが悲鳴を上げて走り出す。

 誰も彼を止めようとはしなかった。泣きながらキャリーバッグを雑に引きずるユウタは狂気に包まれており、常人にできることは見守ることだけであった。

 外に出たユウタはタクシーに飛び込み、「ここに行ってけれ!!」と宿泊予定のホテルの名前が書かれたメモ用紙をタクシーの運転手に渡す。運転手はホテルを確認するとメーターのスイッチを入れ、タクシーをゆっくりと走らせた。

 見知らぬ都会の恐怖に怯えているユウタは体を震わせ、魔法の呪文を唱えて不安を拭おうと試みた。その中、携帯電話が新着メッセージの受信を告げた。画面を見るとそこにはミクからのメッセージがあった。

 「今夜だね♡」。

 これを見た途端、ユウタを支配していた恐怖は嘘のように消えた。そう、彼は東京に来た理由を思い出したのだ!

 (俺はミクに会いに来たんだ。そして、バトルソウルの頂点に立つ!!)

 ユウタは腕時計に目を配る。時刻は1009分。大会まであと3時間51分!!

 (まずはホテルに行ってデッキを作ろう。会場には30分もあれば行ける。つまり、2時間半も余裕がある。イケル!)

 「イケるぞー!!」

タクシー内であるにも関わらずユウタは叫び、甲高い声で笑い始めた。

(俺は東京で成功するッ!!!そして、ミクと結ばれるんだァーーーー!!!!)

妄想を膨らませるユウタを他所にタクシードライバーは外れクジを引いたと思っていた。

(変なの拾っちゃったよ、もぉ~)


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