第3話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]

第3話「ユウタ、挑戦!!」

 

 「滝川先生、ちょっと…」

 放課後の廊下を歩いていたユウタが教頭に呼び止められた。

 「はい?」

 教頭に促されるままユウタは校長室に入って革張りのソファに座る。薄毛頭の教頭は真向かいのソファに座り、数分後に先月調整したばかりのカツラを着用した校長が現れた。

 「実はね~」校長が自分の机に片手をついて窓の外を眺めながら言う。彼は一切ユウタを見ようとはしなかった。「生徒の保護者から苦情が来たんだよ。」

 「へぇ?」ユウタに心当たりはあったが、あえて白を切った。

 (これは何かの間違いだ…そうに違いない。あれがバレるはずなど…)

 「白を切るつもりかっ!!」教頭が唾を飛ばしながら怒鳴った。この声は壁一つ挟んだ職員室にも響いていた。

 「本当に何のことだか分かりません。」とユウタ。

 「本当に知らんのかね?」校長はまだ外を眺めている。

 「はい…」

 「沢辺きゅん…」校長が教頭をアダ名で呼ぶ。「あれを出してくれたまえ…」

 教頭は渋々上着の内ポケットから四つに折られた紙を取り出してそれを机に置いた。ユウタが紙を取り上げると開いて中身を見る。そして、固まった。

 (こ、こっ、こっ、これはぁ!!!!!!)

 目を大きく見開き、紙を持つ両手は震えて心臓が強く締め付けられるような思いを感じた。

 (間違いない!これは俺のチ○ポだっ!!!!!)

 「君がその写真を…生徒たちに送ったんだろ?」教頭は驚愕しているユウタの表情を見ながら尋ねる。「何でこんなことをしたんだね?」

 ユウタは何も言えない。

 「騒ぎが大きくなる前に教師を辞めるんだ。滝川先生…それしか道はないよ~」校長は終始ユウタを見ようとしなかった。

 (コイツら悔しいんだ。俺の方が大きいから…)

 ユウタの思考は完全に別次元にいた。そして、数日後に彼は辞職を申し出た。カードゲーマーへの道は彼自身の局部流出写真が発端となったのであった。

 

 

 

 

 遠藤の演説を聞き終えたユウタと植松はそれぞれの帰途につく前に消費者金融のATMに立ち寄った。植松はそこで計50万を借り、すぐそれを遠藤に手渡した。全てはカードゲーマー歴42年の遠藤が開発中の新カードゲーム「プレイ・ザ・ギャザリング!」への投資であった。この話しに大きな期待を持った植松は50万などすぐ返済可能な額であり、億万長者になるのも夢ではないと思っていたのだ。

 資金を用意できた植松とは対照的にユウタは一銭も借りることができなかった。彼に資金を融資してくれる会社はもう存在しない。あるとすれば、「闇」の方しかない。

 「なんとかしねぇと、ミクにも金が送れなくなるぅ~」頭を抱え込みながらユウタは消費者金融のATMの前でうずくまってしまった。「遠藤さんのカード話しはオイシ過ぎる。投資枠はあと二つだと言っていたし、急がないと儲かるチャンスが………そうだっ!」

 ユウタは財布の中身を確認する。2,471円。彼の全財産である。

 「パチンコで増やす!」

 思いついたらとことんやるのがユウタの長所であった。彼は手遅れになる前に近所のパチンコ屋に駆け込み、そして、わずか6分で二千円を使い切ってしまった。

 「ぎゃーーーーー!!!!!どうすればいいんだってばよぉぉぉぉー!!!!」パッソのハンドルを何度も叩きながら、ユウタは奇声を上げた。絶望という言葉しか見つからない。彼は局部の写真を生徒全員に送信してバレた時の気分と同じ苦しみを味わっている。実際は目当ての女子生徒だけに送ろうとしていたが、間違ってグループに送信してしまったのだ。バカな男である。

 その時、ユウタの携帯電話が新着メッセージの受信を告げるために振動した。彼が携帯電話を見るとミクからの「通話できる?」という一文が表示されている。深く考えることもなく、ユウタはミクに電話をかけた。

 (ミク。俺のミク。君は俺のオアシスさぁ~)

 「ユウくん?」受話口から若い女性の声が聞こえてきた。

 「そうだよ。俺だよ、ミク。」ユウタは完全にミクと言う顔も見たことも無い女性に惚れ込んでいた。

 「入金がまだみたいなんだけど?」

 ユウタは心臓を締め付けられる思いであった。(入金をすっかり忘れてた!!!)

 「すぐに振り込むよ!8万円だよね?」

 「今回だけ10万振り込んでくれる?おねが~い!!」

 「何かあったの?」ユウタが心配して尋ねる。

 「ユウくんに会うために可愛い服を買っちゃったからお金がないの~ね?お願い、ユウくん!」

 「それは大変だ!すぐに振り込むよ!!ミク、頑張るんだよ!」

 「うん!ありがとう、ユウくん!!待ってるからね!」

 そして、電話が切れた。

 (そんなに俺と会うのが楽しみなのか…待っていろよ、ミク!俺がお前を救ってやるぅ!!)

 金欠であるユウタはここである名案を思い付き、パッソを走らせた。

 

 

 

 

 (300万ッ!!!!)

 両親の寝室で発見した通帳の預金額を見てユウタは度肝を抜かれた。彼の予想では50万程度の預金であったが、現実はその6倍であった。

 (これだけの金を持っているのに、黙っていやがってぇ~)寝ている両親を一度睨み付けると、通帳と印鑑をポケットに入れる。(安心してくれ。俺がこの金を有効的に使うからよ!増やしたらすぐに返す!!あばよ、父ちゃん、ママ!!)

 ミクに会うと決めた時から荷造りを整えていたユウタはキャリーバッグと愛用のエナメルバッグをパッソに積んだ。名残惜しそうに実家を見つめ、目頭が熱くなるのを感じながらユウタはパッソに乗り込む。

 (この金を増やしたら帰って来るぜ!それまでは生きてろよっ!!)

 Rにギアを入れて後方を確認しようとルームミラーを見た時、ユウタは人影を見つけてシートから飛び上がった。暗闇の中にいるその影はパッソに近づき、ブレーキランプがその人物の姿を浮かび上がらせる。

 「久しぶりだね、滝川先生…」


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