第2話 [カードーゲーマー・滝川ユウタ!!]

第2話「ユウタ、炎上!!」

 

ユウタは帰り道の途中、漫画喫茶に立ち寄ってナルトの24巻だけを持って個室に入った。この巻に思い入れのあるユウタは不安なことがあると、ナルトの24巻だけを読んで不安を払拭しようとする妙な癖があった。

「どうすればいいんだってばよぉ~」本を机に置いてユウタが呟いた。不安は一向に解消されないのだ。

 (放火は犯罪だよね?それに加担したら、俺も犯罪者…。ばっくれるか?いや、あの遠藤って野郎は強面だから、ばっくれたら何かされそうだな…適当に参加するフリして帰るか。そうだ!そうしよう!!)

 得意の現実逃避に逃げたユウタは恒例のエロ動画漁りとバトルソウル関連サイトの巡回を始めた。約束の時間が来るまで、彼は漫画喫茶で過ごすことにしたのだ。

 何度かミクからLINEを通してメッセージが入り、夢中になってリレーをしていると遠藤から電話がきた。

 「はい?」とユウタ。

 「そろそろ時間だ。来い。」

 電話が切れた。携帯で時間を確認すると既に20時を回っていた。8時間程漫喫にいたユウタは時間を忘れてエロ動画を閲覧しながら、ミクとチャットを楽しんでいたのだ。

 「運命の時だってばよ…」

 ユウタは漫喫を出るとパッソに乗って待ち合わせ場所へ向かった。

 

 

 

 盗んできた灯油をチキチキドン店内に撒き散らす猫背の男。彼の名は植松弘でユウタと同じ29才のフリーターである。全ての灯油を撒くと彼は容器を放り投げ、携帯電話を取り出して店内を撮影する。植松は総額27万円をこの店に注ぎ込んだ。全てはレアカードを手に入れるためであった。

 一方で遠藤は口を開けて店内を眺めていたユウタにマッチ箱を渡し、火を付けるよう言った。手渡されたマッチ箱をユウタは感慨深く見つめる。

 「ユウちゃん…やるんだ!」遠藤がユウタの背中を押す。

 「あぁ…」ユウタはマッチ棒を箱から取り出した。植松はその様子を携帯電話で撮影している。

マッチ棒を擦る度にユウタは棒を折り、火が付いたかと思えば彼は「熱い!」と言って息を吹きかけて火を消した。遠藤と植松はユウタの不器用さに呆れて物も言えなかった。

 「貸せ!」遠藤がマッチ箱をユウタから奪って火を付ける。「こうやるんだよ!!」

 慣れた手つきで火を付けると、遠藤は既に灯油が撒かれている床に投げつけた。火は見る見る内に広がり、その勢いが止まることはなかった。

 「行くぞ!」遠藤が走って出口を目指す。植松もそれに倣う。しかし、ユウタは違った。彼は火の勢いに魅了されていた。

 「すげぇ~」

その時、破裂音がして火の粉がユウタの左腕に降り注いだ。

「あちぃぃぃぃってばよ!!」

左腕を振り回しながら、ユウタはやっと出口まで走った。外に遠藤と植松の姿はなかった。彼らはいち早く現場から立ち去ったのだ。

「クソッ!」

ユウタは急いでパッソに乗り込んで車を走らせる。三人はこの後、遠藤宅で反省会を行うことになっている。しかし、ユウタも植松も遠藤の真の狙いをまだ知らなかった。

 パッソを付近のコンビニに停めるなり、その裏手にあるボロアパートに走った。遠藤の住む部屋に辿り着くと数回ノックして室内に入る。ドアをロックして振り返るとバットを持った遠藤がいた。

 「ひぃー!!」

ユウタが悲鳴を上げると、遠藤はユウタの口を左手で覆った。「静かにせんかい。早くこっちに来い。」

奥に入ると植松が煙草を吸いながら薄ら笑いを浮かべている。「あの悲鳴はユウちゃんかい?情けないねぇ~」

苛立ちながらもユウタは植松の隣に座る。用心していた遠藤は護身用のバットを壁に立てかけ、ユウタと植松の向かい側にある座椅子に腰を下ろす。

「さて、本題に入る。バトルソウル自警団の初ミッションの反省会を行う!」

(バトルソウル自警団?)ユウタは笑いそうになったが、その気持ちを抑えた。

 「もう世界は安全な場所ではない。それは俺たちのシマでも同じだ。」遠藤がポロシャツの胸ポケットから煙草を取り出し、火を付けるとじっくりと味わって煙を吐いた。この演出は遠藤の一番のお気に入りである。

 これにうんざりしているユウタと植松は苛立ちながらも、忍耐強く次の言葉を待っている。

「そこで俺は自警団の設立を思いついた!しかし、そのためには金が要る。大量のな…」

「自警団であれば、そんなに資金を気にしなくてもいいのでは?」と植松が素朴な疑問を遠藤にぶつける。

「あまーーーーーい!!!」子役上がりの女優と離婚したお笑い芸人の懐かしいフレーズを思い起こさせるような声で遠藤が言う。「世の中は金だよ、植ちょん。何事にも金がいる!!カネ、カネ、カネ、カネ、カネッ!!!!!!!!」

ユウタと植松は遠藤の演説に圧倒され、何故だか分からないがニート歴42年の遠藤という中年男の主張が正しいように思え始めた。

「とは言えども…」遠藤は再び煙草を深く吸い、煙を吐いて間を置く。「金はそんな簡単には手に入らない。だから、俺は画期的なアイデアを思い付いた…」

遠藤の鴨となった二人は身を乗り出して浅黒い肌の大男を見つめる。

「新しいカードゲームの作成だ!」

この時、ユウタは雷に打たれたような錯覚に陥った。そして、何故今までカードゲームを自らの手で作ろうとしなかったのか、と自問自答した。

「カードゲームの作成で俺たち自警団の資金を作り、それと同時に悪質なカードゲームの殲滅を行うのだ!」

「では、既にカード計画はあるんですね?遠藤氏。」植松が興奮しながら尋ねた。

「もちろんだ。デザインは俺の専門学校時代の友達が既に取り込んでいる。設定は漫画家であるアラモンさんの下で2日間働いたことのある友達がやっている。そして、全ての指揮を取っているのが俺だ!」

中年男の演説に圧倒されているユウタと植松は何の疑いも持たず、ただただ遠藤の話しに聞き入っていた。典型的な詐欺の手口に嵌っているとは知らずに…


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