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12-4

 

 

 

 喉を抑える広瀬の手当をしようと動いた西野であったが、既に手遅れである事を知っていた。何か喋ろうとする広瀬であるが、喉を被弾したために声を出す事ができず、喋ろうとする度に血を吐いて西野の顔に噴きかけてしまった。血を浴びても西野は怯まず、同僚の体を抱えて首を横に振る。

 「喋らなくてもいい…すぐに助けを呼ぶから…」そう言うと、西野は周囲を見渡して駆け寄ってくる小木と荒井を見つけた。「すぐに救急隊員を呼べ!まだ助かる!!」仲間を見るなり、彼は叫んだ。手遅れだと思っても、諦めたくないのだ。

 小木が携帯電話を取り出して救急車を要請し、荒井は念のために周囲の安全確保に動く。SAT隊員がテロリストの利用していた遮蔽物の陰へ回ると、床に倒れる4人のテロリストに4人のSPを見つけた。荒井が生死の確認へ動くと、倒れていた女性SPが起き上がった。

 「応援ですか?」と女性SP

 「そ、そうですよ…」狼狽えながら荒井は答えた。

 「議員は無事ですか?」

 「まだ分かりません。これから議員を捜索します。」

 「そうですか…」

 西野と小木が見守る中で広瀬は息絶えた。大きく目を見開き、座っていた首は糸の切れた人形のようにガクンと落ち、血に染まった両手はゆっくりと床へ滑って行った。

 仲間の死体を見て呆然とする小木であったが、西野は込み上げてくる嗚咽を抑えて、きつく瞼を閉じる。そして、目を開けると西野はゆっくりと丁寧に広瀬の目を閉じさせ、亡き同僚の防弾ベストに付いている予備弾倉とフラッシュバンを取った。

 「何やってんだ?」小木が不思議そうに尋ねる。

 「分かるだろ?逃げた奴らを追うんだ。」そう答えながら、西野は短機関銃に新しい弾倉を叩き込んだ。「お前はここで広瀬を見ててくれ。荒井よりもお前の方が救急隊員に上手く説明できるだろう。」

 「もういいだろう…俺たちは十分やったぜ。あとは他の連中に任せよう。」小木は広瀬の顔を見て言った。

 「まだ終わってない。」西野が立ち上がる。「まだだ…」そして、彼は本間を追うために走り出した。

 

 

 

佐藤はオフィス椅子の裏側に取り付けて置いた黒いビニール袋に包まれた弾倉を取った。次に中年の男は部屋の隅にあった長テーブルを部屋の中心まで運び、それを踏み台にして天井裏に隠していた布に包まれたライフルを手探りで見つけて慎重に下ろした。

テーブルにライフルを置くと、男は布を取り除いて中身を確認する。薄汚れた布の中から2つの四角い穴が開いている銃床と消音器の内蔵された銃身が特徴的なVSSが出てきた。佐藤はそれを別のテーブルの上に乗せ、弾倉を隠すのに使っていたオフィス椅子を倒し、それを踏み台として使ったテーブルの上に乗せる。

“さて…”心の中でそう呟きながら中年男は窓を開けた。冷たい風を顔に浴び、体を少し震わせると室内に目を戻す。

彼はヴィントレスの愛称を持つこの狙撃銃を持ち上げ、10発入りの弾倉を装填すると遊底を引いてテーブルの上に置いた椅子にライフルを据える。窓との距離は1メートル弱であり、容易には発見されない。佐藤はスコープを覗き込み、150メートル先にあるグランドホテルの搬入口にあるシャッターを確認する。シャッターの中心部分には大きな穴が開いており、スコープの倍率を下げるとシャッター前に乱雑に停車されている4台の車両が見えた。

“あと3分…”腕時計に一瞥を送って佐藤は思った。

 

 

 

 3人のテロリストに囲まれた小田完治とSPの真嶋は背後にあるバンに追いやられた。身を挺して議員を守ろうとする真嶋であったが、これも時間の問題だと思っている。テロリストの目的が議員の殺害であれば、すぐに真嶋諸共小田完治を射殺する。

一方、残り3人のテロリストは議員家族と民間の警備員たちを取り囲んでいた。警備員たちは真嶋同様に家族を囲って盾になろうとしている。

「時間もないし…」堀内が口を開く。「あまり待たせると、議員にも悪いでしょ?死ぬならストレスのない方がいい…」MP-5Kを持ち上げ、堀内は真嶋に銃口を向ける。

議員の死に様を見たいテロリストたちは一斉に堀内の動きを注視する。そして、戸田と言う名の警備員はこれが好機だと判断した。

堀内が笑みを浮かべて引き金を絞ろうとした時、戸田が左隣にいたテロリストのMAC-10短機関銃に掴みかかった。銃を掴むと同時に彼はテロリストの頭に頭突きを喰らわせ、相手が怯むのを確認するや否や、短機関銃をもぎ取ろうとはせずに銃口を堀内の方へ向けて引き金に指を入れて引いた。一瞬の出来事であったが、視界の隅で起こった事に気付いた真嶋は議員と共に床に伏せる。堀内は何事かと思ったが、銃声を聞き、そして、彼の左隣にいた仲間が被弾して倒れるのは見ると状況を把握した。

テロリストは姿勢を低くしながら振り向き、戸田の位置を確認すると2度引き金を引く。銃弾は警備員の左肩と胸に命中し、肩に命中した弾は貫通して戸田の背後にいたテロリストの顎を吹き飛ばした。被弾した警備員は背後の壁に寄り掛かり、顎が吹き飛んだ男は床に崩れ落ちた。

「面白い!」堀内は被弾した戸田に歩み寄る。「度胸がある。でも、状況が悪い…」そう言うと、MP-5Kを持つテロリストは議員家族の盾になっていた若い警備員の頭を撃ち抜いた。

それに激怒した戸田は堀内に襲い掛かろうとするも、堀内に蹴り飛ばされて壁に叩きつけられた。

「非力だ…」そして、堀内は別の警備員の頭を撃ち抜いた。「自分の愚かさに気付いたかな?」

「そこまでにしなさい!」本間が一人の仲間を従えて室内に入って来た。「私たちの目的は小田よ。」

「いいじゃないか…」と堀内。

「議員を殺して逃げる。これだけよ。」

「仕方ない…」

堀内は残念そうに小田議員と真嶋の方へ戻る。やれやれと溜め息をつき、本間は一緒に来た仲間と共に議員の所へ向かう。途中、何かが本間の踵に当たった。女テロリストが足元を見ると、そこには細長い筒状の物がある。

“なっ!!?”

 本間がそれを蹴り飛ばそうとした時、眩い光と爆音が室内を覆った。

 

 

 

西野の後を追うのは容易ではなかった。

銃撃戦に二度も遭遇したため、装備が減って身が軽くなって動きやすくなっても荒井は前を走る西野を追うのが辛かった。戦闘による痛みや疲労からではなく、走る道の光景の凄惨さにSAT隊員は耐えられないのだ。血と肉片で赤く染められた廊下、体の一部が破損した死体の数々、微かに意識のある怪我人の呻き声。全てが目を背けたくなる地獄絵図であった。

小木が大ホールに残ると言ったので、仕方なく荒井は西野の後を追っているが、実際は彼も小木と共に待機していたかった。

それを他所に西野は足を止めることなく走り続けている。彼を突き動かすモノは「復讐」であった。広瀬だけのためではなく、このテロ事件で亡くなった全捜査員と巻き込まれた人々のためである。西野は一人でこの事件を解決する気でいる。

血と死体を頼りに走り続けること1分、二人は搬入口へと繋がる長い廊下で2度の銃声を耳にした。急いで西野と荒井は音がした場所へ駆けつけ、ドア枠の横に並んで室内の様子を伺う。西野は2人のテロリストに囲まれる議員家族とその護衛、5人のテロリストと対峙するSP1人と小田完治を確認した。背後にいる荒井の方を向き、ネズミ取りの捜査官はテロリストの数と大まかな位置をハンドシグナルで伝える。SAT隊員は頷き、MP-5の銃床を右肩に押し付けた。

呼吸を整えながら閃光手榴弾を取り、西野はその安全を抜いて室内へ静かに転がした。手榴弾は吸い込まれるようにして部屋の中央へ転がり、それは女テロリストの踵に当たって止まった。そして、本間が足元を見ると同時にそれは爆発した。

閃光と爆音を確認するなり、西野と荒井は室内へ踏み込んだ。最初にネズミ取りの捜査官が目にしたのは二人のテロリストに囲まれる民間と警備員と小田議員の家族3名であった。彼は目視すると銃口と体を右へ向け、その際に室内の中心にいるテロリスト4名とSP、そして、小田完治の位置を確認した。その後、視線を完全に右へと移動させて脅威の有無を確認する。

異常なし。

2秒の間に脅威の数を理解すると、西野と荒井は姿勢を低くして右へ移動しながらテロリストに向けて発砲する。まだ、閃光手榴弾の影響で視力と聴力が回復していないテロリストたちはこの攻撃に混乱し、この間に撃ち殺されると思い、我武者羅に発砲を始めた。彼らにとって、視力と聴力が元に戻るまでの時間が永遠のように思えた。

閃光手榴弾の存在に気が付いた真嶋は爆発の直前に目を閉じていた。彼に手榴弾の種類を判別するだけの余裕はなく、それはただ単に爆発への恐怖に対する行動であった。しかし、それが結果的に彼へ危機を回避する機会を与える事になる。

爆音による耳鳴りでふらついたが、真嶋の視界は良好であった。彼は議員の手を引いて避難しようとするも、状況が掴めていない小田は腕を振って抵抗する。仕方なくSPは強引に議員の手を引き、大きな穴の開いたシャッターへと急ぐ。そして、シャッターの開閉ボタンを押す。巻取りシャフトが唸るような音を出してスラットを持ち上げる。スラットが60センチ程浮き上がると、彼は議員と共にその下を潜り抜けて外へ避難した。

テロリストの放った銃弾が西野と荒井の頭上を横切って壁に無数の穴を開けた。銃撃を受けても、二人は怯まずに発砲を続ける。銃撃戦が始まると、小田完治の妻と娘が悲鳴を上げ、息子はただ頭を抱えて蹲った。彼らを守る警備員たちは包み込むように警護対象たちを囲む。

西野は小田完治がいる場所に、荒井はその家族を囲むテロリストに向けて引き金を引き続けた。弾薬の節約と精密射撃のため、二人はフルオートでなくセミオートで撃っている。事実、弾の消費を最小限に抑えることはできているが、移動しているために正確な射撃は不可能であった。それでも西野と荒井はそれぞれ一人のテロリストを無力し、高く積まれた段ボール箱と黄色いプラスチック製の箱の陰に滑り込んだ。身を隠すなり、二人は再装填を始める。この頃になってやっと、テロリストたちの視力と聴力が回復した。

クソッ…本間は床に転がる仲間の死体を見て思った。彼女は素早く死んだ男からMAC-10をもぎ取ってバンの陰に身を潜める。

「おい!」

堀内が本間の右肩を引き、本間は鋭い視線を背後に向ける。

「小田がいない。」

女テロリストはそれを聞いて焦り、咄嗟に周囲を見渡した。しかし、小田とSPの姿はない。

「何所よ!!」本間が堀内を怒鳴りつける。

「シャッターを開けて逃げたんだろう。どうする?俺が追おうか?」堀内の言葉には余裕の色が見えた。しかし、本間にはない。

「うるさいッ!!」そう吐き捨てるなり、女テロリストは走り出した。

 

 

 

 

遮蔽物から出るなり、西野は外へ向かって走る本間と彼女を追う二人のテロリストを発見した。彼は短機関銃のセレクトレバーを単射から連射に切り替え、3人のテロリストの動きを追うようにMP-5Fを水平に振りながら引き金を絞る。しかし、銃弾が3人を捕える事はなく、西野は弾倉を一つ無駄にしてしまった。

クソッ!

議員の排除を最優先と考えて外へ出たテロリストを追うために西野は再装填ではなく、腰のホルスターから拳銃を取り出して走り出す。荒井も彼の後を追って動き出した。

その時、バンの陰から堀内が飛び出してきて、西野の拳銃を掴むとMP-5Kの銃口で捜査官の左手の甲を殴った。あまりの激痛に西野は左手を銃から離したが、拳銃はまだ右手で握られている。続けて堀内は短機関銃の銃口を西野の顔に向けた。素早くまだ痛む左手を伸ばして、西野はテロリストの短機関銃を掴んで間髪入れずに頭突きを堀内の鼻頭に喰らわせた。

「先に行けぇ!!」西野が背後で狼狽えていた荒井に向かって叫び、再び堀内の鼻頭に頭突きを入れた。SAT隊員はこの一言で我に返って3人のテロリストを追う。

二度の頭突きで鼻の骨が折れたテロリストは、西野の拳銃から手を離して一歩後退する。右手が自由になると、捜査官は銃口で折れた鼻から血を流す堀内の額を突く。激痛に堀内は短機関銃から手を離し、西野の右手首を掴むと勢い良く飛び掛かり、捜査官をシャッター横の壁に叩きつけた。そして、下から突き上げるように右肘を繰り出して西野の顎を殴る。反撃の機会を与えないようにテロリストはすぐさま右肘を西野の左側頭部に叩き込む。この素早い連打に西野は上手く反応ができず、また、そのダメージによって彼は拳銃を地面に落としてしまった。

堀内は中島にやられた事を真似しようと、西野の頭を背後の壁に叩きつけるために捜査官の体を手前に引いた。この瞬間を利用して西野は右膝で堀内の股間を蹴り飛ばし、体をくの字にして後退する男の頭を両手で掴んで右膝をテロリストの顔面に叩き込む。堀内は悲鳴を上げて後ろに倒れるように転び、血だらけの鼻を両手で抑える。捜査官は既に戦意を失っているテロリストの顔面を蹴り飛ばして追い打ちをかけ、堀内は耳朶を震わせるような悲鳴を室内に響かせた。

しかし、その悲鳴も束の間の事であった。テロリストの口は閃光手榴弾で塞がれ、西野はそれを掌底で深く堀内の口に押し込む。男の目に涙が溜まり、何かを言おうとしていたが、ネズミ取りの捜査官はそれを無視してフラッシュバンの安全ピンを引き抜いた。

 

 

 

乗り捨てられた車で埋め尽くされた狭い道を縫うように進む真嶋と小田完治の頭上を何かが通過した。真嶋は瞬時に銃弾だと気付いて議員と共に近くにあった車の陰に隠れる。二人はまだホテルの裏口から4メートルしか離れていない。

本間たちは急いで真嶋と小田に追いつこうと発砲しながら走ってくる。SPは拳銃を取り出すと、テロリストの足を止めるために弾倉が空になるまで引き金を絞った。発砲されて本間たちテロリストは姿勢を低くすると、付近の遮蔽物に身を隠す。

その間に真嶋は新しい弾倉を拳銃に叩き込む。この際に彼は背後から迫ってくるエンジン音を耳にする。そして、それに続いて何かが激突する凄まじい音が狭い路地に響く。何事かと振り返ると、SPは乗り捨てられた複数の車を押しのけながら迫ってくる黒い大型車両を見つけた。その車は後退しながら、他の車を突き飛ばして小田と真嶋に迫っていた。

新手!!?

咄嗟にSPはその車両に向けて発砲する。しかし、車は停車する事も速度を落とす事もしなかった。拳銃の遊底が後退して弾切れを真嶋に報せる。急いで彼が再装填しようとした時、車が彼らの1メートル先で車体を横にして停車した。焦るあまりSPは新しい弾倉を地面に落とし、急いでそれを拾おうと動く。二人の前で停車した車の運転席から短機関銃を抱えた男が現れ、素早く銃を構えると本間たちテロリストに向けて射撃を開始した。

仲間?!

真嶋が混乱していると、彼の隣に短機関銃を抱えたショートヘアーの女性が並ぶ。

「あの車を使って逃げてください!」新村が銃声に負けないよう大きな声で言った。

「アンタたちは何者だ?」と射撃を続ける野村と新村を交互に見て真嶋が尋ねる。

「増援です!いいから、早く!!」そう言うと、新村は車の陰から身を乗り出してテロリストに向けて発砲する。

「ありがとう…」

SPは議員を連れてSUVに乗り込もうとする。しかし、議員は抵抗した。

「家族がまだ―」

「まずは議員の安全確保です。それから―」

「何をしてる!?」再装填する野村が真嶋を怒鳴りつけた。「早く逃げろッ!!」

 

 

 

野村と新村の介入によって、本間たちは足止めされた。そして、この状態は佐藤にとって好機であった。静止物ほど撃ちやすい物はない。中年男はスコープの十字を本間の頭部に合せ、伸ばしていた人差し指を引き金に掛ける。

あとは合図を待つだけ…

撃鉄を下ろす音が背後から聞こえてきた。佐藤はため息をついて引き金から指を離し、狙撃銃から顔を離す。

「両手を挙げて、その大きな銃から離れてくれないかな?」背後にいる男が言う。「ゆっくりね…」

「どうして、ここだと?」両手を肩の高さまで挙げると佐藤が尋ねる。彼はゆっくりと振り返り、声の正体を確認した。部屋の入口にはだぶだぶの服を着た男が立っている。距離は2メートル弱。

「ネットで付近の建物を確認したんだ。それでここが一番いい場所だと思った…」中島が笑みを浮かべて言った。SAT隊員は腰の位置で拳銃を構えている。

「面白い…」そう言いながら、中年男は一歩、中島に近づく。

「申し訳ないけど、じっとして欲しい。手荒な真似はオイラの趣味じゃない。」

「本当かな?」佐藤はまた一歩踏み出す。距離は約1.5メートル。

これを見ても中島は笑みを崩さない。佐藤はその笑みが優越から来るモノでなく、SAT隊員の戦術だと見抜いた。相手の緊張を解して投降するように促すのが目的だ。

「本気だけど…アンタにその気は無いみたいだね。」

中島が佐藤の脚を撃とうと銃口を動かした瞬間、狙撃手がSAT隊員に飛び掛かった。

 

 

 

閃光手榴弾が爆発する直前に西野は拳銃を拾い上げて外に飛び出した。彼は出てすぐの場所にあった車の陰から射撃している荒井の隣に移動し、周囲の状況を確認する。異常なし。西野は急いで拳銃をホルスターに戻し、MP-5Fに新しい弾倉を叩き込む。

形勢は逆転した。3人のテロリストは挟まれ、あとは時間の問題であった。しかし、彼らは無駄死にする気など一切ない。

いた!本間は小田完治の姿を確認した。議員はSPに連れられて車に乗り込もうとしている。激しい銃撃を受けながらも、女テロリストは鞄の中からプラスチック爆弾と信管を取り出した。急いで爆薬に信管を差し込もうとするも、被弾した右腕が震えて上手く行かない。

こんな時にッ!!

衝撃が胸部を襲い、彼女は爆弾を地面に落として背後にあった車に叩きつけられた。荒井の発砲した弾が命中したのだ。これに気付いた本間の仲間2人が立ち上がって背後へ集中砲火するも、野村と新村が2人のテロリストを沈黙させた。

やっと現場に静寂が訪れた。本間は胸の痛みに耐えながら、爆弾を拾い上げようとする。しかし、その直前で西野が爆弾を取り上げた。女テロリストは歯を剥き出してネズミ取りの捜査官を睨み付ける。

「もう終わりだ…」と西野。

奇妙な音が聞こえた。ガスが漏れるような奇妙な音であった。西野が音源へ顔を向けた瞬間、彼と荒井の背後にあった車が爆発して2人は地面に叩きつけられた。

遠くから見ていた野村と新村は爆発の原因を目撃していた。

ロケット弾。

それはホテル裏口の正面にある一方通行の道から飛んできた。

2人の捜査官が急いで西野を助けようと走り出すなり、ロケット弾が飛んできた道から2台の白いバンが出現した。バンから重装備の男が10人降りてきて、野村と新村に向けて発砲する。野村は急いで新村を引っ張って近くの遮蔽物に身を隠す。

一体、何人いるんだ!?

爆発の影響で意識が朦朧する中、西野は迫ってくる10人の男たちを見た。彼らは本間たちと違って短機関銃ではなく、火力の強い自動小銃を所持して顔は目出し帽で隠されている。

急いで動こうとするも、全身に激痛が走って捜査官は再び地面に崩れ落ちた。周囲に目を配る。右斜め前方に車を背にうな垂れている本間、左隣には地面に叩きつけられた衝撃で頭から血を流す荒井。西野は激痛に耐えながら、右手をゆっくりと拳銃のホルスターへ伸ばす。人差し指が拳銃に触れ、急いで銃把を握る。銃を引き抜こうとした時、何者かが捜査官の手を掴んで拳銃をもぎ取った。

西野から銃を奪った男は隣にいた長身の仲間に手渡し、受け取った男はその銃口を気絶している本間に向けて2度発砲する。頭部と胸部を撃たれた女テロリストは呆気なく死亡した。

次は自分の番だと思った西野は目を閉じて死を覚悟した。しかし、本間を撃った長身の男は西野の拳銃を自分のベルトに挟めると、胸ぐらを掴んで西野を引き寄せる。

「久しぶりだな、小林…」そう言うと、長身の男が目出し帽を脱いで素顔を見せた。男の額には小さな切り傷がある。「それとも…西野と呼ぶべきかな?」

男の顔を見た西野は驚きを隠せなかった。

「も、守谷……?」

 

 

 

 

 

 

 

 ご愛読ありがとうございました!

また来年!! 

 


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