返報 0-6 [返報]

 公園には子供連れの女性6人と世間話をしている老人2人しかいなかったため、中島は公園内では浮いた存在であった。また、この日は平日であり、中島と同年代の男性はほとんど働きに出ている。
 SAT隊員は子供連れの女性たちの冷たい視線を感じながら砂場で遊んでいる自分の娘を少し離れた場所にあるベンチから見守っていた。3歳になる彼の娘は小さなプラスチック製のスコップとバケツを持ち、砂場を歩き回ってはスコップで砂をすくい上げてバケツに入れて遊んでいる。
 「パパ!」彼の娘が中島の方に走ってきた。「これ、これ見て!」彼女の手には赤いビー玉があった。
 「うわぁ!どこで見つけんだい?」中島が娘の手の中にあるビー玉を指差して言う。
 「砂場で見つけたの!パパにあげる!」SAT隊員の娘は父親にビー玉を手渡すと再び砂場に走って行った。
 先ほどまで砂場には彼の娘しかいなかったが、今は他に3人の幼児が遊んでいる。中島は娘が仲間に入れるかどうか心配したが、彼の娘は彼の心配を他所に砂場にやってきた子供たちと一緒に遊び始めた。
 「こんなところで会えるとは…」中島の背後から声が聞こえてきた。SAT隊員が後ろを振り向こうとした時、彼に声をかけた男が中島の隣に腰かけた。男の顔を見ると中島は再び砂場へ視線を移動させた。
 「何の用だ?」中島が素っ気なく尋ねた。
 「たまたま近くを通ったので…」銀縁眼鏡をかけた藤木が言った。「娘さんですか?」
 「そうだよ。また、誰か尾行してるのか?」
 「まぁ、それが仕事ですからね。それより聞きましたよ。停職処分を受けたそうで…」
 「ちょっとな…」中島は藤木に自分の処分のことを知られていて腹立った。
 「まぁ、将来有望の新人SAT隊員を病院送りにして、上司を押しのけたて緊急会議室に乗り込んだのに停職処分なんて奇跡ですよ。私なら免職でしょう。」
 「嫌味を言いに来たのか?」
 「そんな暇があると思いますか~?」藤木がニヤニヤしながら言う。
 「公安は何を考えているのか分からないからな~」
 「面白い話しがあります。」
 「何だ?」
 「政府が極秘に対テロ機関を設置しました。“あの事件”のせいです。」藤木は中島の額に青い筋が浮かぶのを見た。「政府は我々だけではあのような事件に対処できないと考えたそうです。」
 「そうなると、お前や俺は用無しってことか?」
 「いえ、逆ですよ。彼らは腕の良い連中をスカウトして回ってます。」
 「お前はスカウトされたのか?」中島は冗談交じりで聞いた。
 「残念ながら私はもう彼らの一員なんですよ。」
 中島は驚いて隣に座っている銀縁眼鏡の男を見た。「お前、もう公安じゃないのか?」
 「はい。私はもう警察官ではありません。」
 「どうして辞めたんだ?」
 「限界を感じたとでもいいましょうか?既存機関では対応できないことが多すぎるんです。中島さんも知ってるでしょ?」
 SAT隊員は何も言わなかった。
 「“あの事件”で大切な人を亡くしたのはあなただけではないんです。もう二度とあのような―」
 「帰れ。」中島の声には何の感情も込められていなかったが、藤木は危険を察知してベンチから立ち上がった。
 「最後に一つだけ復讐なんて考えないでくださいよ。」銀縁眼鏡の男がベンチから離れようとすると背後から殺気を感じた。
 “勘弁してくれよ…”藤木は肩越しに中島を見る。SAT隊員は元公安の男を黙って見つけていた。
 「復讐だと?」中島が藤木の背中に向けて言った。
 「そうですよ。」藤木は敢えて振り返らずに答えた。「あなたはもう“あの事件”に関わるべきじゃない。」
 「俺は公安じゃないからお前の言っていることが分からねぇよ。」
 背後に感じる殺気によって藤木の背中は冷や汗で濡れ、両脚も震えていた。
 “ここまで威圧するかよ!”
 数メートル離れた場所で待機していた藤木の同僚も中島の殺気を感じて身震いし、ホルスターに収められていた銃に手をかけたほどであった。しかし、子供たちとその母親たち、老人たちはその異変に気付くことができなかった。
 「中島さんに…」藤木がハンカチで額に浮かんでいた冷や汗を拭って振り返った。「中島さんに話さなければならないことがあります。」

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